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「おっ」  ビニール袋を手にぶら提げた翔宇がコンビニから出てきて、俺と彼を交互に見てから声をあげた。 「なんだよ、(レイ)! 随分早かったな。ほい響希、煙草」  俺の隣で水色の傘を揺らしている彼が翔宇に気付き、にっこりと微笑む。 「話しながら向かってたからね」  そこで俺は悟った。どうやら彼が翔宇の言っていた男らしい。 「零。こいつがさっき言った俺の友達だ。八坂響希」 「初めまして、桐島零です」  丁寧にお辞儀をした零が、上目に俺を見つめて笑っている。営業スマイルとは分かっていても、こんな笑顔を向けられたらこのテの男が好きな客は一溜まりもないだろう。  かなり売れてるな。直感的に思った。 「な? 可愛いだろ、響希」 「ああ」  としか言いようがない。別に俺の好みではないが、一般的に見て可愛いのは認める。  それから傘を差し、零を挟んで三人で歩きながら、俺は零に翔宇との出会いについて訊ねた。 「翔宇くんが、今月の頭くらいに予約して店に来てくれたんです。店外で食事だけして終わったんですけど、それが超楽しくて。内緒で番号教えちゃったんです。秘密ですよ、店にバレたら怒られる」  その顔があまりにも嬉しそうだったから、俺はつい意地悪なことを言ってしまった。 「翔宇は他の店の子に声かけまくってるからな。あの界隈の殆どの客と穴兄弟だぞ」 「そうなんですか?」  すかさず、焦った翔宇がフォローを入れる。 「で、でもさ。こうやってオフで会うのは零が初めてだぜ」 「俺も、お客さんとオフで会うのは初めてですよ」  顔を見合わせて笑う二人に気付かれないよう、俺は小さく舌打ちした。 「響希くんは翔宇くんと一緒に暮らしてるんですよね? 仲いいなぁ」 「ああ、こいつとは中学からの幼馴染だ」  幼馴染、という部分に心なしか力が入った。だから俺達の間にお前が入る隙なんてないんだ、という意味が含まれている。嫌な奴だと自分で思った。 「いいなぁ。俺、中学の友達なんて今どこで何してるか分からない奴ばっかですよ」 「でも零、十八歳てことは高校卒業したてだろ?」  翔宇が訊くと、零は笑いながらかぶりを振った。 「高校は一年で中退したんです。ゲイなのがバレて一部から虐められちゃって」 「………」  そんな暗い過去を笑顔で話されても困る。 「だから今はすごく楽しい。お店のスタッフさんもお客さんも優しいし、こうやって友達もできたし」  翔宇が笑って頷いている。俺は笑おうとして、……笑えなかった。  その楽しい時間には限りがあると知っていたからだ。五年後も今と同じように客やスタッフから優しくされているかと言ったら、そんな保障はどこにもない。  今の零は確かに若くて美しい。だけど若さをウリにできなくなった時のことを想像すると、他人事ながら哀れに思えてきた。そしてもちろんそれは、俺達にも言えることなのだ。 「俺んち、ここです」  十五階建てのマンションの十階。最寄駅もそこまで遠くないし、なかなか良い場所に住んでいる。  部屋に入って更に驚いた。高い天井と、街を一望できる大きな分厚い窓ガラス。大型テレビ、ダブルベッド。この部屋全体が、彼の店での人気ぶりを語っているかのようだった。 「じゃ、とりあえずビールで乾杯しようぜ」  フローリングの床は人の顔が映るほど清潔で綺麗に光り輝いている。そこへ翔宇がコンビニの袋を置き、俺達は丸いガラステーブルを囲んで座り込んだ。  それぞれ手にしたビールやジュースを互いにぶつけ合う。 「えっと、詩音と流星と光コウの友情に乾杯!」  翔宇が照れ臭そうに言って、俺と零は苦笑した。  それからしばらくは酒を飲みながら互いの店の話や趣味の話で盛り上がった。 「響希くんは、女の子と付き合ったことある?」  唐突に訊かれ、俺は首を横に振ってそれを否定した。 「翔宇くんは?」 「ないけど、セックスはやろうと思えばできるかな。マグロでいいなら」 「でもさ、この仕事って、意外とストレートの人も多いよね」  酒が入ったのと俺達の仕事柄、段々と話の内容がそっちの方へ流れて行く。 「こう見えて俺、仕事だとタチもウケも両方やってるんですよ。あと、AVの話もきたことあって」 「マジで? 上映会しようぜ」 「いや、さすがにちょっと断りましたけど」  翔宇がさっきから零の手を握っていることには気付いていた。俺は四本目の缶ビールを開けながら、翔宇に向かってニッと笑う。 「お前だってAVの話きてたじゃん。結局どうなったんだっけ?」 「ああ、その時は無理だったけど、今ならオッケーするかなぁ」 「翔宇くんと響希くんで絡めばかなり売れるんじゃないですか? 二人ともかっこいいし」 「無理。俺らタチ同士だもん」  きっぱりと翔宇に否定され、なんとなく胸が痛んだ。 「零とだったらいけるけどなー」  そう言って、翔宇が零の白い頬に唇を押し付ける。笑いながら床に倒れて行く二人を、俺はただぼんやりと見ていた。 「ん。ん……」  フローリングの床の上、唇を重ね合っている翔宇と零。今さら俺に嫉妬心なんてない。それよりも、早く零との絡みを通して翔宇の体を見たいという気持ちの方が大きかった。 「翔宇くん、ビールこぼれちゃうよ」 「じゃ、ベッド行くか」  立ち上がった二人がダブルベッドに転がるようにして倒れ込む。零と口付け合いながら、翔宇が指で俺も来るよう合図した。  少しだけ面倒臭いと思いつつ、ビールをテーブルに置いてベッドに向かう。  俺と翔宇で左右から零の頬や首にキスをすると、零は早くも呼吸を荒くさせ始めた。 「ん。気持ちいい……」  翔宇の手が零のシャツを捲る。俺もそれを手伝い、二人で零の服を脱がせていった。 「あ……」  零の肌は白く、柔らかかった。思わず頬ずりしたくなるほどにきめ細やかで、普段俺達が相手にしている客達とは大違いだ。てのひらでただ触れるだけでも気持ちいい。 「やっ、あ……あぁっ」  俺と翔宇で零の小さな乳首を口に含み、ボクサーパンツに隠された部分を撫で回す。零は大袈裟なくらい声を上げて俺達の愛撫に応えた。 「あ、あ……。気持ちいいっ……あっ!」 「本当に? 演技じゃねえの?」  翔宇が意地悪く笑いながら、零の濡れた瞳を覗き込んだ。 「ほんと、ほんと。翔宇くん、もっと……」 「舌出して」 「んっ……」  零と翔宇が濃厚なキスをしだしたので、俺は仕方なく零の乳首を啄みながらパンツの中に手を入れて扱いてやった。 「あ、あっ、響希くん、駄目っ……」  翔宇と舌を絡ませながら零が言う。文字通り舌足らずになっているその声に、俺の中のサド心がふつふつと沸き上がってくるのを感じた。 「翔宇、こっち」 「ん」  脱がせたボクサーパンツを床に落とし、零の足を持ち上げ、左右に開かせる。 「どうする、ダブルでいくか」 「いいぜ。響希もう少し詰めて」  その言葉を聞いて、零は荒い呼吸を繰り返しながら両手でシーツを握り締めた。  大きく開いた脚の間に、俺と翔宇の頭が入る。既に屹立している零のそれは、俺達の愛撫を待ち侘びているかのようにビクビクと脈打っていた。

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