24 / 26

23

「あっ、あ……。翔宇っ……気持ちいい……」  翔宇の唇からこぼれる卑猥な濡れた音が、更に俺を扇情的な気持ちにさせる。 風呂場でされた時と今とでは、訳が違う。ましてや、仕事中にされる愛撫なんかとは比べ物にならない。少しでも気を抜いたらあっという間に果ててしまいそうなほど、翔宇のそれは神がかっていた。 「あぁっ、もう……俺っ」 「まだ出しちゃ駄目だぞ。響希、俺もすげえ熱くなってきた」  服を脱いだ翔宇が俺の体に覆いかぶさる。俺達は全裸で抱き合い、今日何度目かのキスをした。 「翔宇、早く……」 「響希を気持ち良くさせる方が先だ」 「も、もう充分気持ちいいって。ずっと緊張したままでいたくねえよ……」 「そうか。じゃ、少しだけ……」  体を起こして俺の傍らにあぐらをかいた翔宇が左手で俺のそれを握り、優しく前後に扱きだした。そうしながら、空いた右手でローションの蓋を開ける。 生温い液体が俺のその部分に塗りたくられる。翔宇の左手が聞き慣れた音を立てて俺のそれに絡み付き、同時に熱くなった入り口に右手の指を突き立てられた。 「んっ、……」 俺はシーツを握り締めて、開いた自分の足先を見つめていた。  前に翔宇の指を挿れられた経験はあるものの、俺の体は緊張してさっぱり言うことを聞いてくれない。 「響希、力抜いて」 「う、……ん……」 「もう少し」 何度も深呼吸を繰り返し、なんとか内股の力を緩める。翔宇の指が俺の中へ侵入してきたと思った瞬間、一気に根元まで挿れられた。 「うわ、お前っ。急すぎっ……あぁっ……!」 「だ、大丈夫か。なんて声出してんだよ、響希」 「すげ……翔宇の指、奥まで入ってるっ……あ、あっ」  さすがにローションが有るのと無いのとでは俺への負担が全然違う。中をゆっくりとかき回されても、激しく揺らされても、風呂場の時と比べたら痛みは殆どなかった。 「っていうか……、どうなんだよ、俺……。指だけならまだ余裕っぽいけど……」  ベッドに肘を付き、なんとか仰向けになった上半身を起こしてその部分を見ようとする。すると翔宇が指を抜いて、両手で俺の尻を左右に広げながら「中」に目を凝らした。 「いけるっちゃいけるかもな……」  俺は深く息を吐いて天井を見上げ、再びベッドに身を倒した。 怖くて仕方ないのに、早く翔宇に抱いてもらいたい。 心も体も翔宇と一つになりたい。 「朝になる前に終わらしてくれ……」  翔宇が自身のそれを扱きながら俺の脚をもう一度開き、その間へ腰を入れた。 「分かった。でも響希、本当に無理だったら言ってな」  頷き、目を閉じる。 「っ……」  眉がヒクついた。その一瞬、呼吸が止まる。 「響希、大丈夫か?」  息を飲み、天井の一点を凝視する。  翔宇のそれはひどくゆっくり、しかし確実に侵入してきている。想像以上の異物感。 俺は仰向けに寝たままで首を起こし、翔宇と繋がった部分に顔を向けた。しかしもちろん、この体勢ではそこまで見ることができない。 代わりに、翔宇に問いかけた。 「翔宇、入ってる……?」 「入ってる。響希の中マジでキツい……。こんなキツいの今までで初めて……ていうか、超あったけえ」  また人をからかうような冗談かと思ったら、本当に翔宇は眉根を寄せて歯を食いしばっていたので驚いた。 「動かすぞ響希……」 「ん……」  翔宇が両手で俺の下腹部を押さえた。そうしながら、少しずつ腰を前後に動かし始める。 「ん、あっ……」  ゆっくりと中を擦られる感触は指でされるのとは全く違うものだった。挿入後の痛みが思っていたよりも少ないのは、翔宇に散々弄られたお陰なのか、それとも元々俺に素質があったということなのか。 「響希、辛くねえか……」 「だっ、大丈夫……ぁっ」  翔宇の腰がぐっと奥まで入ってきた。 「うあっ!」  更に勢いよく引き抜かれ、また同じ勢いで奥まで挿入される。背筋がゾクゾクするような感触に、俺は思わず翔宇の腕を掴んだ。 「あっ、あぁっ……!」 「気持ちいいか……?」 「分か、んねえけどっ……声、出るっ……あぁっ!」  堪えようとしても、打ちつけられる度に喉の奥から声が出てしまう。  一定の間隔で激しく腰を前後させながら、翔宇が俺のそれを握った。 「あっ!」 「俺ばっかり気持ち良くても悪いからな」  腰の動きに合わせて、俺のそれが扱かれる。 「うぁっ、あっ! あぁっ……」 「やっぱこっちの方が感じるか」 「ふあ、ぁっ……気持ちいい、翔宇っ……!」 「俺も気持ちいい……。響希、愛してるよ……」 俺の目からどっと涙が溢れ出した。 「……あっ、俺もっ、あぁっ……翔宇……」  ずっと口を開けて声を出していたためか、喉がひりついてきている。大きく開いた脚のせいで股関節も痛い。そして長い時間刺激を与え続けられているせいで、今も翔宇に擦られているその部分はじんじんと痺れていた。  それでも、俺は翔宇のために喘ぎ続ける。翔宇を奥深く受け入れるために脚を開き、痺れて仕方がないそれを翔宇の手に委ねた。 「好き……」  呟いた言葉も、流れている涙も、全て翔宇のためだ。  七年間想い続けてきた。  嫉妬もしたし、時には翔宇を憎みもした。だけどそれ以上に誰よりも、好きで好きで仕方なかった。 この先こんなに人を好きになることなんて無いと、今の俺は胸を張って言える。 「好き……翔宇っ、好き……」  幾度となく翔宇に貫かれながら、未だ信じられない思いもあった。 本当に俺は翔宇と結ばれたのか。もしかしたら全て都合のいい夢なのではないか。目が覚めたらそこはヘリの中か。待機室か。それとも中学校の教室か……。 「響希、俺の顔見てろ。初めてお前を抱いてる男の顔、最後まで見てろよ……」 「ふっ、あ……あぁっ!」 目の前の翔宇は確かに存在している。 「俺も響希が大好き……。ずっと前から好きだったよ」  それは、気が遠くなるような現実だった。 「あっ、あっ……翔宇っ! お、俺っ……」  荒々しく扱かれている部分に限界が近付いていた。 「俺もイきそ……」  翔宇は俺のそれを握った手と腰を、何度も、激しく前後に動かし続ける。 「うぁっ! あっ、あ……イ、くっ……」 「響希……!」 「あぁっ……!」  俺が絶頂に達した後、翔宇が体を倒して強く抱きしめてくれた。 「っ……!」  そしてそのまま、翔宇が俺の中で果てる。 「……はぁ」  二人分の激しい息遣いと心音が、静まり返った室内を支配している。  翔宇がゆっくりと俺の中からそれを抜くと、粘ついた体液が俺の入口から垂れてシーツに滲み込んで行った。 「……だ、大丈夫か、響希」  ぐったりとベッドに横たわった俺の隣に、翔宇がうつ伏せる。終わった瞬間の俺はまさに放心状態といった感じで、翔宇の問いかけに答えることすらできなかった。  ティッシュを箱ごと手に取った翔宇が、俺の腹に付いた精液を拭いてくれた。その後に自分のそれを拭き、最後に俺と翔宇が繋がっていた部分を丁寧に拭う。 「……翔宇」 「なに?」 「いつも、仕事の時こんな感じなのか……?」  自分でも可愛くないことを言っていると思った。  だけど一度翔宇に抱かれて芽生えてしまったこの気持ちは、もうどうしようもない。俺はたぶん、これ以上翔宇に他の奴を抱いてもらいたくないと思ってしまっている。 「響希、腕枕してやる」  俺は広げられた翔宇の上腕へ頭を乗せ、逞しい胸元に手を置いた。 「仕事中の俺は『詩音』だから、何もかも演技でやってるだけだ。でも今は、マジで気持ち籠ってたんだぞ」 「分かってるけど……」  汗をかいた翔宇の肌。指先で触れながら、俺は唇を尖らせる。 「俺もお前のこと言えた義理じゃないけど……。何か、ちょっと……」 「嫉妬しちゃうか?」 「今まで何とも思ってこなかったのにな。おかしな話だ」  翔宇が笑いながら大きく息をついた。 「確かに俺も、これから響希が客に抱かれるかもって考えると、嫌だな」 「……初めは翔宇が誰と付き合ってもいいやって、思ってたのに」  それが今では、例え仕事だと分かっていても翔宇が他の男を抱くと思うと胸が苦しくなってくる。これって、一種の束縛なんだろうか。俺が欲張りなんだろうか。 「ごめん、翔宇……。仕事のことは口出ししない決まりだよな」 「いや、それって当たり前のことだろ。普通なら付き合ってる奴が他の男とヤるなんて許せねえモンだって」  窓の外は明るくなってきていた。午前五時少し前の、紫色の空。 「普通か。今までもある程度は普通なつもりだったけど、セックスに関しては明らかに普通じゃなかったもんな。翔宇は特に」 「う、うるせえな。これからちゃんとすればいいんだろっ」  翔宇に鼻を摘まれ、俺は身をよじって笑う。 「だからさ、響希……」 ふいに、真剣な声で名前を呼ばれた。 「……ん?」  俺の肩を抱きながら、翔宇は天井を見つめている。  そして―― 「仕事、一緒に探そうか」  その言葉はきっと、俺にとって最後の魔法。潤んだ目から溢れ出したのも、きっと最後の涙。  頷いた俺の頭を撫でる翔宇の手と、静かに重なった唇。 この温かさだけは、これからも永遠に続くんだ。 「ずっと傍にいるよ」  夜が終わろうとしている――

ともだちにシェアしよう!