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――……貴方(あなた)と共にありたかった… ――命の行方(ゆきがた)を定めよ ――私は次も、其方(そなた)を見つけ、其方を()で…もう一度、想いを伝えよう 「これで僕と寿樹(ひさき)さんはもう一度結ばれる運命だったことが証明されましたね♡」 「智子(さとこ)さん、こいつ一発殴っていい?」 「落ち着きなさい弥里(みさと)」  小柄で金髪の白衣を着た青年は怒りから拳を振り上げる。その怒りは頭周りに珍妙な機械を装着したいかにも実験台にされていた黒髪の愛らしい少年(のような青年)に向けられている。  金髪の青年を諌めながら女性は目の前のモニターを真剣に見比べる。 「残念だけどそこの浮かれバカの言うことには間違いないわ。冷泉(れいぜい)帝の即位前後に記された滝原(たきはら)家に関した文献との前世の記憶媒体は95%以上一致してる」 「くっ………お、お、俺は認めねぇぞ! こんな脳内お花畑のヒョロ男が俺の最初の敵だったなんて! 絶対に認めねぇ!」 「うふふ♡」 「実験はおしまい。もう1人の方は…あーらら、VR装着したまま寝ちゃってるわ」  女性は呆れながらもう1台の実験台に目を向けた。そこには明らかに仕事帰りのサラリーマンの格好をした男性が黒髪の青年が装着してたものと同じ機械をかぶったまま熟睡してた。 「あんな軽度な安定剤で寝るってよっぽどお疲れね」 「社畜ざまぁ」 「寿樹さん…VRつけたまま眠っててもかっこいいなぁ…♡」  実験台になっていた黒髪の青年は乙女のように眠る彼に見惚れる。その他の2人は再び呆れてため息を吐いた。  ここは京都・龍王寺(りゅうのうじ)の中にある「川原(かわら)研究所」  日本考古学の第一人者・川原 智子氏を所長におく極々小さな研究所である。  金髪の小柄な青年は智子を師事する大学生・岡埜(おかの) 弥里(みさと)、黒髪の青年は研究員・城山(しろやま) (みどり)、そして深い眠りについてるサラリーマンは研究所とは無関係だが碧と運命的な出会いを果たした(碧・談)恋人・滝原 寿樹(エリート)だ。  時刻は深夜12時、3時間以上の実験を終えた智子と弥里は疲労した脳と体に鞭を打つようにエナジードリンクを飲む。  碧は実験前に投与された安定剤の影響でフラットにされた実験台からまだ起き上がれずにいたので体を横に向けて、隣で眠る(機械をきちんと外した)寿樹の寝顔を眺めてうっとりする。 「はぁ…輪廻転生なんてファンタジーの概念だと思ってたけど、ここまでくると今世でできる限り徳を積もうと思っちゃうわね」  智子はドリンクを飲みながら実験のリザルトを眺める。弥里も後ろから覗き込んで見る。 「本当ならこの滝原(たきはらの) 靖久(やすひさ)って奴が冷泉帝の右大臣になるはずだったんスね。女ならまだしも、男に走って死ぬとかバカなことしてんなぁ」 「岡埜はガキだからロマンがわかんないのよねぇ」 「あ゛?」 「そうですよ、みーくんも僕みたいに素敵な恋をしましょうよ」 「ホモは黙ってろ!」  前世の因縁が続いているかのように弥里と碧はとことん合わない。だが健気な碧は弥里と仲良くなることを諦めていないのであった。  碧と寿樹を使い何故このような実験をしてるのか。  最近同棲を始めた2人は、一緒のベッドで寝るようになってから毎夜同じ夢をみるようになった。はじめは惚気話として聞いていた智子だったが、内容がとある文献と一致していることに気がついた。  2人が智子の調査する時代に何か関わりがあるのではないかと思い始め、川原研究所が秘密裏で開発している記憶媒体を記録する機器の精度を高める目的も兼ねて2人の記憶を読んだ。  そして2人は前世で禁じられた恋の末に悲劇を迎えた恋人同士であった。  寿樹は「滝原 靖久」という貴族の青年、碧は暗殺を得意としていた僧兵の「青成(せいじょう)」の生まれ変わりであることがほぼ認められたのであった。

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