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第4話
希望は風呂上がりに鏡の前でふと立ち止まった。
鏡に映る自分の身体が目に入って、しばらく鏡を見つめる。
そして、今度は鏡越しではなく、実際に自分の身体に目を向けた。
……ふ、太ってはいないはず……だけど……。
焼肉を堪能していた時の、ライの言葉が少し引っかかっていた。
『エロい身体になっている』なんて、そんな馬鹿な。
と思いつつもライに言われると気になってしまう。
再び鏡を見て、希望は自分の身体に触れて、確かめる。
確かに、胸は歌手になる以前と比べると少し大きくなった。シャツのボタンをきっちりと一番上まで閉めると少しきつく感じるほどだ。
でもそれは、歌うの為には頑張って筋トレをした結果だ。
……う、うん、そう。歌うためだもん。俺、歌手になったんだもん。
だから、胸はセーフ。
歌手になり、ライブをするようになって、希望はもともと逞しい方だった身体をしっかりと鍛え直した。
ライブを乗り越えるには体力が必要で、声を出すためにも筋肉が必要だった。
喉にだけ頼る歌い方だと長く歌えないから、全身を使って声を出すのだと学んだ。
その結果、重点的に鍛えた胸は少し大きくなったし、腹筋は割れて、引き締まっている。
希望は胸を触ってみる。胸は他の部分に比べて盛り上がっていて、しっかりと掴むことができた。
あれ、でも、ちょっと、ふにっとしてきちゃった気がする……。
ライさんが揉むから……?
で、でもこれくらい別にいいよね? セーフだもん。
次に希望は腹回りの肉をつまもうとしたが、つまめるほど余分な肉はなかった。
代わりに、一生懸命育てて、うっすら割れてきた筋肉をそっと撫でる。
お腹も、……腹筋あるからたるんでないし、大丈夫。
引き締まった分細くなったから、ちょっと胸が大きく見える気がするけど……。
いや、大丈夫。セーフ。
希望は鏡に少し背を向けて、振り返る。
自慢ではないが、お尻は昔からかわいいと言われていた。
鍛えているからきゅっと上がって、それでいて丸みを帯びた尻を掴んでみる。
むにむに、と確かめるように揉むと、柔らかすぎず弾力があって、ほどよく手の平に馴染んだ。
その感触を、希望は何度もむにむに、と揉んで確かめる。
……なんか、こんなに……、
……む、むちむちっとしてたっけ?
胸はさておき、腹筋をはじめとした上半身は引き締まっていて、逞しく育っている。
しかし、そこから腰から尻、尻から太股にかけてのラインが曲線でできていた。
引き締まった腰から尻へのくびれ、ぷりっと丸いお尻、それに合わせたようにむちり、とした太股。
希望は身体をくにくに、と満遍なく触れてみて気づく。
今まで自分の肌にじっくりと触れる機会などなかったが、希望の肌は、しっとりしていて、白く、そして柔らかい。
胸や尻以外も、筋肉は確かについていていて逞しさを感じるが、それを覆う肌はそこまで厚みはないのに柔らかく感じた。
太ったとは思いたくないが、肌はふにふにむにむに、むっちりとしている。
少し肉付きがいい、胸や尻、太股に触れるとなかなかいい肌触りではないか、と希望は思った。
あ! もしかして!
ライさんが隙あらば俺の身体を撫でたり、揉んだり、何かと触ってくる理由は、これ!?
触ると気持ちいいから?!
希望は唐突に気づいてしまって、あまりの衝撃に震える。
希望はずっとライは意外とスキンシップが好きなのかな、と思っていた。
しかし、自分の身体が触りたくなるような身体だったことが原因のかもしれない、と気づいて、希望は急に恥ずかしくなる。
「何してんだお前は」
「ぎゃあっ!」
希望が驚いて振り向いたが、自分の尻を両手で揉むという不思議な体勢になっている。
ライの訝しげな視線が痛い。
「なげぇよ、風呂が。あとなにそれ? 何の儀式?」
「ご、ごめんなさい……」
おかしな体勢というだけでなく、真っ裸というあわれもない格好が恥ずかしくて、希望はいろんなところをそっとタオルで隠した。
「……?」
ライは希望とその前の鏡を交互に見ている。
先ほどの希望の奇妙な体勢の理由を考えて、そして、気づいたようだった。
楽しそうな笑みを浮かべて、希望の肩を抱き寄せる。
むき出しの肩にライの熱い手の平が触れて、希望はドキッとした。
「さっきの気にしてたの?」
「……だって、ライさんが……!」
「そうだな、ごめんな」
「あ、謝んなくても……、ひぃんっ!?」
希望が思わず悲鳴を上げた。
ライの大きい手が希望のお尻を強く掴んで、丸い形が歪む。
指が食い込み、手の平で包まれ、柔らかく揉まれた。
「んっ……!」
その感触に、希望は小さくぴくり、ぴくりと震えて身悶える。
「それで?」
「え?!」
「どこがエロくなったのかわかった?」
「あっ、んっ……! え、エロくなってない!」
びくびくと身体を震わせながら、希望は身の危険を感じた。
自分が揉んでいた時とは全く違う、絶妙な強弱をつけた揉み方に身体の奥がじくじくと熱くなる。
これはまずい、とライの手を制止しようと掴んだが、止めるには至らなかった。
「ああ、自分じゃわかんねぇか」
「あっ、ぅうっ……!」
急にライに後ろから腰を抱き寄せられて、髪を掴まれ、洗面台に押しつけられる。
上半身だけ洗面台に俯せになり、尻をライに向けて突き出すような形になってしまった。
一糸纏わぬ姿でのこの体勢は恥ずかしい。
慌てて起き上がろうとしても、後ろから背中をぐっと押さえつけられて逃れられられなかった。
「い、いやだっ、なに? なにをっ……ひゃんっ!?」
希望はびくっと大きく身体を振るわせて、振り向いた。
冷たくねっとりとしたローションを、お尻の割れ目に垂らされている。
な、なんで!? ていうか、どこにあったのそれ!
希望が突然のことに目をぱちくりさせていると、ライがぐっと身体を押しつける。
「えっ?! あっ、んぅっ……!?」
冷たいものが流れていたそこに熱を押し当てられたことに気づいて希望は震えた。
固くて大きい、その熱が何なのか、見えなくてもわかる。
わかるようになってしまった。
「ラ、ライさん……?」
「どこがエロくなったのか気になるんだろ?」
「い、いやっ! いいっ、もうっ……はぅんっ!」
尻の割れ目でずるり、と擦られて、希望の悲鳴は甘く高くなる。
「あっ……ふっ、ぅんっ……! んんっ……!」
そのままゆっくりと尻の間で何度か擦られるだけで、ぞくぞくと快感への期待で背筋が震えて動けなくなった。
希望が耐えるようにぎゅっと目を瞑って震えていると、ライが希望の頭を撫でる。
優しいなで方に少し安心して、恐る恐る目を開けると、ライと目が合った。
「大丈夫だよ。全部教えてやるから。ちゃんと理解できるように」
ライが暗い目を楽しそうに細めて、口元を歪めて笑う。
「だからそろそろ、自分の身体が男を煽るものになってるってこと、自覚しような」
いつもは低くて冷たい声が、今はやたら甘く優しく囁いた。
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