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第7話

 小鳥遊希望は一八歳になる男子高校生だ。  思春期真っ只中から、ちょっと大人の階段を登り始めた好奇心旺盛な時期である。  それとこれが関係あるかはわからないが、希望はライにこんなお願いをした。   「俺、ラブホテル行ってみたいなー」    にこにこ、と笑って、瞳をきらきらを輝かせ、希望はそうお願いした。  希望の「行ってみたいなー」は、「連れてって♡」ということである。  ライはそれを最近理解した。  希望がにこにこしているのを見て、ライは呆れたようにため息をついた。 「……今度な」  ライの答えに、希望はぱあっとより一層表情を明るくして、瞳からキラキラの星をまき散らす。  ライの「今度」は次に会う時だ。信用できる「今度」なのだ。  ライが答える前に、眉を寄せて希望をじっと睨んだ気がしたが、ライが怖い顔をするのはいつものことなので、希望は気にしなかった。 「ありがとう! 楽しみだなー! お風呂大きいかなー?」 「さあな」 「お風呂がガラス張りって本当ですか?」 「場所によるだろ」 「そっかー。あ、じゃあベッドが大きくて、お風呂も大きいところがいい!」 「わかった」 「やったー! ありがと! あ、コーヒー入れてくるね」  希望はまるで動物園か水族館に行くことが決まった子供のようなうきうきとした足取りでライのマグカップを持って台所へと向かった。      希望はラブホテルに入ったことがなかった。  今まで歴代の恋人は片手でギリギリ数えられる程度いたことがあるが、愛を交わしたのは両親が不在のことが多い自分の部屋か、恋人の部屋かどちらかである。  もともと年齢のこともあって、ラブホテルには行ったことがなかった。  ライと付き合ってからも、初めての夜からずっとライの家、ライの部屋に連れ込まれている。  しかし、希望も晴れて一八歳。  今までまったく興味がなかった……と、言ったら嘘になるが、そんなに気にしたことがなかったラブホテルにふとしたことで興味を持った。    お風呂がガラス張りで、ベッドが大きくて、えっちな雰囲気なところ。    希望のラブホテルのイメージはその程度だ。  特に調べたわけではないが、なんとなくそんなイメージを持っていた。  一八歳になったし、ちょっとだけ見てみたいなあ、と思春期の好奇心がくすぐられる。    しかし、希望には、「ラブホテルに行ってみようよ」や「連れて行って」と言えるような仲の友達や知り合いはいなかった。  友達と遊ぶために泊まるプランも最近はあるらしいけれど、ライが許すとは思えない。      ……ハッ! そうだった!  俺にはライさんがいる!!      そこまで考えて、希望はようやくライにお願いすればいいのだ、と気づいた。    何で気づかなかったんだろう!  ライさんに連れてってもらえばいいんだ!  絶対詳しいじゃん! あんなにモテるんだから!  前までは結構女の人と一緒に……、  ……うん、とにかく詳しいはずだ!    ライと女性が歩いている光景をいくつか思い出して、希望の心は暗くて悲しい方へ落ち込んでしまいそうだったが、気合いで持ち直す。  何故気づかなかったのか、希望も不思議だが、なんとなくあえて避けていたような気がしなくでもない。  しかし、ここで頼れるのはやっぱりライさんだ、と希望は思った。  一八歳とはいえ、もしかしたら高校生は入れないのかなぁ、だめかなぁ、といろいろ考えていたが、ライに任せればなんとかしてくれる気がする。  合法はどうかは、怖くて聞けないが。  そんな不安が希望の頭を過ぎったが、ブンブンッと頭を振って振り払った。    今度な、って言ってくれたし、連れてってくれるんだきっと!  楽しみだなぁ!    希望はわくわくしながら次の機会を待った。      ――この時の希望はまだ、自分の発言の軽率さに気づかずにいたのだった。

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