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Jealousy Christmas
手に入れられないと、諦めていたのに。
いざ手に入れると、もう手放す事ができない。
彼の明るさが愛しくて。
彼の優しさが愛しくて。
社交的な彼が、こんなにも愛しい。
それなのに……
彼の明るさが面倒で。
彼の優しさが煩わしくて。
社交的な彼に、集まってくる人達が大嫌いだ。
大きな声で「彼は俺のものだ!」と叫びたくなる。
彼を慕う者達への嫉妬。
彼を独り占めしたいと欲する独占欲。
手を伸ばす事すらできなかったくせに、この二つの感情は素知らぬ顔で、心の中を埋め尽くす。
面倒だけど愛しい。
煩わしいけど愛しい。
俺だけを見て欲しい。
こんな俺を――見捨てないでくれ。
独りにしないで――
孤独など、慣れていたはずなのに――
彼を失うなど、考えたくもない。
だから、どうか――
俺の側を離れないで。
俺を捨てないで。
俺を独りにしないで。
俺だけを見て。
俺を――求めて。
☆ ★ ☆
その事件は、12月24日に起きた。
「頼む、神野! この問題の答え、教えてくれ」
「俺も!」
「私も!」
クラスメイト達が集まり、俺を拝んでくる。
――うざったい。
勉強など、自分ですれば良いだろう。
俺は内心で深くため息をつき、クラスメイト達に振り返る。
「どの問題ですか?」
よし。
今日も上手く笑顔を作れているだろう。
その証拠に、集まるクラスメイトの誰も、俺の憂鬱(ユウウツ)に気付いていない。
「あんがとー。この問題なんだけどな……」
こんな問題もできないのか――と言いたいが、言葉を呑み込み、できるだけ丁寧に解き方を説明する。
何度も押し掛けられて、その度に相手をするのも煩わしい。
「あぁ、そういう事か! ありがとうな、神野」
「いつも分かり易くて助かるぜ、神野」
「ありがとう、神野君」
お礼を言うクラスメイト達に、にっこりと微笑んだ俺は、軽く「いいえ」とだけ返す。
説明する時は煩わしいばかりだが、感謝されて嫌な者はいないだろう。
二度と同じ問題を教えたくはないが――
クラスメイト達が離れて行き、やっと一息つく。
ずっと笑顔を作っているのも、意外と疲れるのだ。
小中学生の時は、こんな面倒な事はなかったのに、と当時を思い返す。
生まれつき色素を持たない、この白い髪と赤い眼。
まだ幼い子供だったクラスメイト達も、初めは偏見など持っていなかった。
けれど、その親は別だ。
やれ髪を脱色しているだの、カラーコンタクトをしているのではと……
他の子供と違う事を訝しんでは、本物だと分かったら気味悪がり、時には物々しく哀れんだり。
そんな親の反応は、当然子供達にも影響する。
自分の親が他の子供を構う姿に嫉妬して、逆恨みをして――俺にはとんだとばっちりだ。
体育館裏に呼び出され、殴る蹴るのいじめを受けた事もある。
体作りのために空手を習っていたから、返り討ちにしてやったが――
恐ろしいのは集団心理と言う物で、一部が避けるようになれば、いつの間にかクラス中から遠巻きにされていた。
寂しいと思った事は、一度も無い。
班になってと言う時だけ、少し面倒だったが、それ以外はむしろ気楽だった。
しかし、高校に上がるに当たって、体面と言う物が出てくる。
クラスメイトの親に、散々「脱色だ」「カラーコンタクトだ」と疑われた。
入試の筆記は問題無いとは言え、生まれつきの白髪と赤目に、不信感を持たれてはかなわない。
そこで、わざわざ髪を黒く染め、黒いカラーコンタクトを付けた。
もくろみは当然成功。
しかしそれも――入学式の日で終わった。
まさか、教室を出ようとした所で彼にぶつかり、その上カラーコンタクトをダメにしてしまうなんて――
しかし、それから全てが一変した。
『綺麗な目だなぁ……まるで、真っ赤なバラのつぼみみたいだ』
思い出すだけでにやけてしまいそうになる顔を、悟られないように隠すのが大変だ。
運命などと、ありきたりな言葉を使うのは嫌いだが、彼――徹との出会いに関してだけは悪くない。
感謝しても良い。
徹が自分と同じ前世を生きていたと知った時は、本当に歓喜した。
その上、男同士と言う壁を乗り越え、今では恋人同士である。
これ以上の幸せがあるだろうか――
そう思っていたのに……
俺は教室の扉を見詰め、無意識に小さなため息をついていた。
「……今日も、遅い」
ここ一ヶ月ほど、彼が教室に来るのが遅い。
いつもは、特に待ち合わせなどしなくても、学校へ来る道の途中で一緒になるのに――
何度か徹の家へ迎えに行っても、大抵は鍵がかかっていて、徹の父親がいた時は「もう学校に行った」と言われる。
いつも学校に行く時間より、何時間も早く。
そしてHRのギリギリ前になって、やっと教室に入って来るのだ。
また部活が終わった後も、すぐに帰ってしまう。
俺が話し掛ける間も無く、むしろ逃げるように。
そのせいで、最近はまともに徹と話せない。
毎日のように泊まりに来ていたのも、ぱったりと無くなってしまった。
当然、セックスもしていない。
俺はまたため息をつき、気を紛らわせるために小説を開いた。
名前は売れていないが、神秘的かつダークなストーリーが気にいっている。
いつもなら何度読み返しても飽きない、お気に入りの作品なのだが……
どうしても今は、内容が頭に入らない。
目で文章を追っていても、いつの間にか徹の事を考えてしまう。
一体どこで、何をしているのか……
前に何度か問い掛けたが、その度にいろいろとはぐらかされ、絶対に教えてもらえなかった。
気になる事は、もう一つある。
徹の指に絆創膏(バンソウコウ)が貼ってあるのだ。
やはり一ヶ月ほど前から、初めは二つ、そして日を追う事に三つ四つと増えていき――
今では両手の指で、貼ってない指の方が少ない。
しかも、俺の神力で薬(唾液)を塗ってやろうとしたら、大慌てして――
傷口さえも見せようとしなかった。
俺は本に顔を埋めて、こっそりとため息をつく。
徹は何を隠しているのだろう?
恋人なのだから、何か問題があるのなら、相談してくれても良いのに……
徹に隠し事をされているのが、こんなにも空しいなんて、今までずっと知らなかった。
隣に徹がいないだけで、こんなにも気持ちが沈んでしまう。
「……早く来い、馬鹿」
小さく呟いても、相手に届く訳が無く……
結局、徹が教室に入って来たのは、ホームルームが始まった直後だった。
☆ ★ ☆
その日の昼休み。
徹は弁当も食べずに、教室を飛び出して行った。
すぐに後を追い駆けようとしたが、いくつか角を曲がる内に見失ってしまう。
昼休みとはいえ、廊下にごった返す人波が憎い。
少しの間探し回っていた俺は、思わぬ所で徹を見付けた。
それは、父の愛人である光が管理する保健室。
俺が今いる棟の向かいに位置する棟で、二つの窓越しに徹の姿が見える。
(なんで、保健室なんかに……?)
確かに最近、指の怪我が増えてはいたが、保健室に行くほど酷い物ではないはずだ。
しかも、保健室の窓に面した事務机に座る光と、楽しそうに笑っている。
――胸の奥が、ズキリと痛んだ。
何を話しているのか、ここからでは聞こえない。
弁当を後回しにしてまで、徹が保健室に行く理由も分からない。
なんで――笑っているのかも。
徹と恋仲になってから、ずっと忘れていた黒い物が、胸の中でざわつく。
不意に立ち上がった光が、保健室のカーテンを閉めようとする。
俺は思わず廊下の窓に駆け寄り、外と隔てるガラスにすがりつく。
カーテンで隠された保健室の中に、まだ徹はいる。
一体、中で何をしているのか……
我知らず震える手で、胸元を鷲掴む。
心臓が、うるさいほどにドキドキとして、苦しい。
いつの間にか人気の無くなった廊下に、動揺する俺の荒い呼吸だけが響く。
(落ち着け――相手は、父様の愛人だぞ)
前世の昔から愛し合う二人が、浮気などする訳がないのだ。
けれど――
☆ ★ ☆
放課後。
保健室の扉を開くと、部屋の主は事務机の前に立ってした。
片付け中だった手を止め、こちらに振り返る。
「あぁ、神野君。……どうか、しましたか?」
異様な物を感じたのか、光が強張った表情で、俺を見ていた。
幸い、部屋の中には、他に人はいない。
後ろ手に扉を閉めた俺は、ゆっくりと、光に歩み寄った。
「徹と何を話していたんですか?」
「えっ……? 急に、何を……」
何かを警戒するように、光はゆっくりと後退る。
しかし、狭い部屋の――しかも窓際にいたのだ。
逃げ道など無い。
「……もう一度聞きます。今日の昼休み、徹と、この部屋で! 何を話していたんですか?」
激昂しそうになる心を抑えて、俺は再度、光を問い詰める。
「それは……」
壁際に追い詰められても、まだ逃げようとして視線を迷わせる光に、俺は拳を壁に叩き込む。
顔の真横を殴られた光は、緊張に息を呑み、目を見開いて俺を見る。
「光先生……答えてください」
「神野……君……」
光が声を震わせる。
――俺が聞きたいのは、そんな事じゃない。
「答えろ!!」
俺が怒鳴ると同時に、保健室の扉が開いた。
「やめろっ、世流!!」
いつの間に来たのか――切羽詰まった徹の制止に、俺は壁に当てていた手を引き、ゆっくりとそちらを振り返る。
「何があったんだ? 今のお前、少しおかしいぞ」
「荒神君!」
光が何かを伝えようと首を振るが、関係無い。
俺は徹を見据えたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「俺が……おかしい、だと……?」
「だっておかしいだろ? いつも冷静なお前が、何怒鳴ってんだよ」
徹の言葉に、俺の中の何かが切れた。
無造作に徹の腕を掴んだ俺は、何か言おうとすがりつく光を突飛ばし、問答無用で徹を引っ張る。
後ろで徹が「心配無い」とか言うのを聞きながら、俺はひたすら廊下を進んで行く。
部活中の今、廊下にも教室にも、人はいない。
けれど、もっと奥、もっともっと奥へ――
光(ヒカリ)さえも避けるように、俺は徹を学校の外、それも裏手にある廃倉庫に連れて行った。
「こんな所、良く知ってたなぁ……」
のんきにキョロキョロする徹の声が、今は酷く憎たらしい。
俺は親指の腹を噛み切り、プックリと浮かぶ血の雫を、鍵穴に押し込む。
カチッ……
ほどなくして、異臭のする白い煙を上げ、鍵穴が壊れた。
「あぁ~あ、お前……学校の物壊すなよ」
「ウルサイ――」
呆れた顔をする徹が、どうしても癇(カン)に触る。
俺がこんなにも苛立っているのに、徹の態度はいつもと変わらない。
俺はこんなにもお前の事を考えているのに――
こんなにも――
俺はギリリと唇を噛み締める。
「おい、世流! バカ、お前――血が出るじゃねぇか!」
「――お前が悪い」
低く呟いた俺は、徹の顎を掴んで無理やり上向かせ、その唇に舌を捩じ込む。
「んぅっ……! んんっ……!?」
抵抗して俺の肩をバシバシ叩く徹に構わず、俺はたっぷりの唾液をその口に注ぎ込んだ。
次第に徹の体から力が抜けていき、肩にすがりつく手も、体を支えきれない足もガクガクと震えだす。
十分に薬が効いてきて、俺はやっと徹の口から舌を抜いた。
膝がガクッと崩れ、俺の肩にすがりつく徹を、軽く支えてやる。
顔を真っ赤に上気させ、荒い呼吸を繰り返す徹は、もう一人で立っている事もできない。
「よ……るぅ……何……を……」
「ただの催淫剤だ。何倍も濃度は高い物だが、体に害は無い」
「おま……んっ……!」
小さく呻いた徹が、内股になった太股を、モジモジと擦り合わせる。
「イきたいか……徹?」
低く耳で囁いた俺は、ズボンの上から、もぎ取らんばかりに強く徹の中心を握った。
「ヒゥッ……!? あああああぁぁぁぁ!!!」
一瞬息を止めた徹が、耳をつんざくような悲鳴を上げて果てる。
ドクドクと溢れ出る精液がズボンの色を変え、俺の手を熱く濡らす。
「んっ……ふぅ……」
その染み渡る感触にも感じているのか、徹が悩ましげな吐息を漏らす。
だが、まだ俺の気は収まらない。
やっとこの手に捕まえたのだ。
今日こそは、秘密を聞き出してやる。
そしてそれ以上に、今まで俺を放置していた、お仕置きもしなければ……
俺は下唇をペロリと舐め、唇の端を吊り上げる。
タールのように黒く冷たい狂喜と闇の中に、俺は堕ちて行く。
☆ ★ ☆
薬のせいで熱く火照った徹の首筋に触れ、久しぶりの感触を確かめるように、ゆっくりと胸へ滑らす。
たったそれだけで、徹は快感に喘ぎ、艶かしく身体をくねらせる。
「んっ……はぁ……」
部屋の真ん中の柱に括り付けた腕が、キシキシと小さな音を立てた。
昔は何かの部室だったのか、畳敷きの狭い部屋で、布地の紐が残っている。
おそらく部屋の中心にある柱が邪魔で、それか部員が増えたせいで、ずっと使われなくなったのだろう。
俺にとっては、徹の手を縛るのに丁度良い。
徹から剥ぎ取った制服は、無駄に敷き詰められていた座布団と一緒に、部屋の隅へ捨てた。
お蔭で簡単に埃は一掃できたし、外気が入らないためか、それほど寒くない。
俺は心置き無く徹に覆い被さり、すでに硬くツンと尖った乳首に、ねっとりと舌を這わせる。
「あん……よるぅ……」
「なんだ? 言う気になったか?」
問えば、また徹は硬く口を引き結び、イヤイヤと首を振った。
その瞬間、俺の心にどす黒い物が渦を巻く。
「まだ、お仕置きが必要なようだな……」
俺は再び乳首を舐め回し、もう一方を片手でつねりながら、空いた手で徹の熱を扱いた。
「うぁ……っ! やめ……あっ、あぁっ……よるぅ……」
徹のモノはもう爆発しそうなほど膨れ、血管を浮かべてビクビク震えるが、熱を放出する事はできない。
俺がネクタイで縛っているからだ。
徹が素直に白状するまで、外してなんかやらない。
俺は口に含んでいた乳首を、カリッと噛んだ。
「ひゃうぅ……! それ……ダメェ……」
徹が口の端でヨダレを垂らしながら、ガクガクと身体を震わせる。
縛った一物も、さっきからずっとダラダラと蜜を流していた。
「なら、素直に言うか? 徹、お前はいつも、何を隠している?」
問い掛けながら肉棒を握るが、徹はビクッと身体を跳ねさせながら、やっぱり首を横に振る。
俺は奥歯を噛み締め、喰いちぎる勢いで徹のモノを咥えた。
そして唇で上下に竿を扱き、ズズズッと強く吸い上げる。
徹は嬌声を上げた。
「言えっ、徹!!」
俺が絶叫しても、徹は頑なに拒否する。
どうして――
もうとっくに限界で、気も狂わんばかりのはずなのに――
どうして拒否する?
どうして俺には、何も教えてくれない?
恋人なのに!
……いっそこのまま、徹の心を壊してしまおうか?
そうすれば、徹はずっと、俺だけの物に――
徹の首に手を伸ばしかけた俺は、ハッとして我に返った。
――俺は、何をしているんだ?
徹の身体を手に入れても、徹の心が伴っていなければ、何の意味も無い。
ふっと顔を上げた俺は、硬く閉じられた徹の目から、大粒の涙が溢れているのを見た。
俺の中を埋め尽くしていた何かが、風に飛ばされる砂のように、あっけなく瓦解していく。
「と……る……」
掠れる声で呼ぶと、徹はゆっくりと目を開けて、静かに俺を見上げてきた。
そして、信じられないほど優しく、笑った。
「何、泣いてんだよ……ばぁか……」
徹に言われて初めて、自分が泣いている事に気が付いた。
もう一杯一杯になって、どうして良いか……俺にも分からない。
「と……る……」
もう一度、徹を呼ぶ。
徹は動かせない腕で必死に上体を浮かせ、苦し気な顔で、ペロッと俺の頬を舐めた。
それで腕の力が尽きたのか、ドサッと身体を落とし、荒く呼吸を繰り返す。
「……ごめ、んな……よる……」
途切れ途切れに言う徹を、俺は何も言えずに眺めていた。
徹が、真っ直ぐに、俺を見る。
「……明日……明日まで……待ってて、くれ……明日になったら……ちゃんと、教える、から……」
「明日……?」
俺がおうむ返しに繰り返すと、徹はこっくりと頷いて優しく笑った。
「ワガママ言って……ごめんな……?」
「徹……」
俺はすがるように徹を抱き締め、その唇に深く口付けた。
「んぅ……」
少し苦しそうに呻きながら、徹が俺のキスに応えてくれる。
互いの舌を絡ませ合い、冷えきった俺の心を溶かすように――
本当は、明日なんて待っていられない。
今すぐに知りたくて、胸が張り裂けそうだ。
それでも――
「……明日、だからな」
徹の、言葉だから。
俺の好きな顔で、にっこりと、徹が笑うから。
「おぅ。約束な!」
徹は本当に馬鹿だ。
お仕置きとはいえ、こんな酷い事をされているのに、そうやって俺に笑いかけてくれる。
もっともっと……徹を好きにさせる。
「徹……」
徹が欲しい。
徹の事を考えるだけで、この身体は、どこまでも飢え渇くようだ。
「徹……」
まだ上を向く徹の屹立を、俺はパクッと咥え込む。
「んあぁ……世流……」
悩ましげな声で鳴く徹が、ビクビクと身体を震わせ、もっととねだるように腰を振る。
俺は徹の熱を咥えたまま、ニヤリと笑った。
――やはり、徹に優位を取られたままというのも、少し癪(シャク)に触る。
俺は徹の気持ち良い所を重点的に、裏筋を舐め、傘に舌を這わせた。
根元を縛ったままだというのに、徹の鈴口からは透明な蜜が染み出して、甘い芳香を放つ。
「ふあぁ……よるぅ……もう……!」
口の中で徹のモノがビクビクと震え、徹が限界を訴える。
俺は少し名残惜しく思いながら、徹の根元を縛るネクタイを、ゆっくりと外した。
徹の身体がビクンッと跳ねる。
「あぁ……っ! あっ、あっ、あああああぁぁぁぁあーーー!!!」
甲高い嬌声を上げた徹が、ドプッドプッと断続的に、大量の白濁を俺の口内に放出した。
溜め込んでいた分、味も臭気も濃厚なそれを、俺はむさぼるように飲んだ。
口に入りきらなかった分も舐め取り、ついでに徹の足を開かせて、奥の窄まりにも塗り込んでやる。
「あん……あぁ……よる……よるぅ……」
徹が嬌声を上げて腰をくねらせながら、何度も俺の名前を呼ぶ。
それだけで俺の快感は煽られ、飢えと渇きが満たされていく。
もっと徹を貪りたい。
それでも――明日という約束だから。
俺はゴクリと唾液を飲み、今まで愛撫していた手を渋々離した。
徹が快感を逃がすように固く目を閉じ、全身で息をしながら、ピクピクと先端を振るわせている。
「明日……だからな……? 忘れたら、許さない」
徹がコクコクと頷く。
今は、ソレを信じて、俺は拘束を外した。
☆ ★ ☆
翌日。
本当は家で待っているように言われた俺は、近くの公園にいた。
少しでも早く、徹に会いたい。
寒さのせいか、休日なのに人の姿はない。
正直な所、俺も寒いのは苦手で、今にも凍えてしまいそうだ。
いや、凍えているのは昨日、徹と分かれてから――
『……明日……明日まで……待ってて、くれ……明日になったら……ちゃんと、教える、から……』
徹は、そう約束した。
徹はきっと、約束を守ってくれる。
そう信じているのに――
この不安は何だ?
なぜ不安に思わなければならない?
不整脈のように心臓が速く動き、胸が苦しい。
早く徹に会いたい。
けれど同時に、会いたくないと思う自分がいる。
「徹……」
徹の事を思うだけで、涙が出そうだ。
この気持ちは何だろう?
モヤモヤした物が、どんどん濃く重くなってくる。
それを埋め隠そうとするのか、真っ白な雪が降ってきた。
汚れを知らない純白が、少しだけ目に痛い。
やっぱり家で待っていようかと、ベンチから腰を浮かせると――
「世流!」
突然かけられた声に、俺はハッと動きを止めた。
息をするのも忘れて、ゆっくりと顔を上げる。
「何だよ、家で待ってろって言ったのに」
どこか呆れたような口調で、けれどにっこりと笑った徹が、こちらへ真っ直ぐに走ってくる。
その顔を見た瞬間、なぜか俺は、この場から逃げ出したい衝動に駆られた。
動悸がますます速く、苦しくなってくる。
「徹……」
「丁度良いや。ちょっとだけ、目ぇつぶってろよ」
ニヒヒと笑う徹に、俺は無意識に一歩下がった。
「なっ……何をする積もりだ?」
「良いから、早く!」
徹に促されるまま、俺は恐る恐る目を閉じた。
徹が得意そうにヘヘヘっと笑う気配がする。
――まさか、昨日の仕返しか?
いや、徹はそんなセコい男ではない。
しかし――
初めて恐怖を自覚した俺は、きつく目をつぶり、体を硬くした。
しかし、恐れていた衝撃は何もこない。
それどころか、何か柔らかい物が首にかけられ、俺はハッと目を開けた。
「あっ! まだ目ぇ開けるなよぉ……」
徹がブゥと唇を尖らせ、俺を上目遣いに睨む。
しかし見てしまった物は仕方がない。
徹は少しブスッとしたまま、俺の首に深緑色のマフラーを結んだ。
手作りなのか、少しだけ端が凸凹していて、先の方に赤い薔薇の飾りが付けられている。
驚いた俺が言葉を失っていると、マフラーを結び終えた徹が、満足そうに一つ頷いた。
「やっぱ世流には、深緑が似合うな」
首に巻かれたマフラーに触れても、今の状況が信じられない。
「徹……これは……」
「俺からのクリスマスプレゼント! 光先生に教えてもらって、一生懸命に編んだんだぜ?」
どや顔で胸を張った徹が、マフラーの端に縫い付けた薔薇に触れる。
「どうしても薔薇の飾りが付けたくて、光先生に相談したら、昨日見付けて来てくれたんだ」
俺はハッとした。
昨日の昼――
徹と光が保健室で話していたのは、この飾りの事だったのか。
おそらく、朝早くに学校へ来て、保健室でこっそりと編んでいたのだろう。
胸が張り裂けそうになった俺は、気付けば熱い涙をボロボロと溢していた。
「バ~カ、そんなに泣くなよ……」
俺を抱き締めた徹が、優しく背中をトントンと叩いてくれた。
「……心配させて、ごめんな?」
何も言葉にできなかった俺は、徹の肩に目元を擦り付けるように首を振り、ギュッと抱き締めた。
凄く嬉しい。
そんな言葉では足りないほど、胸が詰まって熱くたぎる。
「徹……」
「ん?」
「……ごめん」
昨日の行き過ぎたお仕置きの事――
徹を信じられなくなりそうだった事――
全てが申し訳ない。
徹はニヒヒと笑った。
「俺は、嫉妬されて嬉しかったぜ?」
「……バカ」
小さく呟いた俺は、徹の唇にそっとキスを贈った。
「ん……ふぅ……」
舌を擦り合わせながら、徹が息継ぎの合間に甘い息を漏らす。
心置き無くキスを堪能した俺は、最後に徹の下唇を舌でなぞり、唇が触れる距離で囁いた。
「……ありがとう、徹」
「おう」
またしっとりと抱き締め合うと、不意に徹が肩越しにくしゃみをした。
「ハックシュン!!」
「うわっ! 急に――驚くだろ!」
徹が俺に抱き付いたまま、耳元で鼻をすする。
「仕方ねぇだろ……マフラーなんて編むの初めてで、昨日は保健室で徹夜したんだからよ」
聞けば、光に許可は取った物の、学校側には秘密にしてあるので、暖房類は一切使えなかったらしい。
手に怪我が増えていたのも、慣れない編み棒で何度も指を刺していたようだ。
……昨日のお仕置きのせいだとは、絶対に一言も言わない。
「それに……パンツ……ちゃんと乾かなくて……」
ついに徹が、昨日の事に触れる。
しかし重要なのは、その事ではない。
「もしかして今……履いてないのか?」
言葉よりも早く、カアッと顔を赤くした徹が、無言でコクリと頷く。
おそらく、俺も顔を赤くしていただろう。
顔が熱い。
「……家に、来るか?」
「おぅ……そうさせてもらうわ……」
俺は人目も憚(ハバカ)らず、徹と手を繋ぎ、家に帰った。
徹のぬくもりが伝わってくる。
求めて、求めて、やっと手に入れたぬくもり。
このぬくもりを失う事が、何より恐ろしい。
また嫉妬に狂って、徹に酷い事をしてしまうかも知れない。
それなのに徹は、嫉妬されて嬉しいと、言ってくれたのだ。
自惚(ウヌボ)れてしまいそうで、少し怖い。
少し強く手を握ったら、その手を、徹は強く握り返してくれた。
この天然のたらしめ。
もっと好きになるじゃないか。
ますます手放せなくなるじゃないか。
「……何、ニヤニヤしてんだよ?」
「ニヤニヤなんて、してない」
「嘘つけ! 一体、何を考えてたんだ?」
覗き込んできた徹の顔に、俺はキスしてやった。
驚いた徹が、すぐに俺から顔を背けて、頬を真っ赤に染める。
愛しい人。
きっと俺は、もう徹から離れられない。
これからも、永遠に――
……END.
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