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嫉妬のその後
〈光sid〉
帰ってきた世流君と徹君の姿を見て、私は本当にホッとしました。
昨日、保健室に来た世流君は、本当に余裕が無くなっていて……
秘密にするという約束を破って、全てを打ち明けたくなりました。
けれど、徹君は「サプライズしたい」と言っていたし……
迷っている内に壁際まで追い詰められ、丁度そこに徹君が来てしまいました。
般若(ハンニャ)のような形相の世流君は、本当に怖かったです。
二人が保健室を出た後も、気が気ではありませんでした。
しばらくして徹君が戻って来た時も、薬を盛られた苦しそうな顔に、胸が痛みました。
けれど徹君は――
『世流に隠し事すんなら、こんくらい覚悟の上様ですよ』
そう言って、にっこりと笑っていました。
そして「どうしても」と必死にお願いされ、学校には内緒で保健室を貸しましたけど……
どうやら成功したようですね。
徹君がシャワーを浴びている間、私はお茶の準備をします。
いつもは紅茶かコーヒーですが、今日は甘いココアにしてみましょうか?
簡単なおやつを用意しながら、そんな事を考えていると、世流君がキッチンに顔を覗かせました。
「……光さん……少し、良いですか……?」
「はい。何ですか?」
私が何気無く振り返ると、世流君は決まり悪そうな顔をしてうつむき、徹君にもらったマフラーを握り締めています。
不思議に思った私が首を傾げると、世流君は急に深く頭を下げました。
「昨日の事……ごめんなさい……」
私は目を見張ってしまいました。
世流君は昔から、自分が間違っていれば、真っ直ぐに謝れる子です。
ですが、こんなしおらしい姿は初めて見ました。
――思わず、笑ってしまいます。
「光さん……?」
頭を上げた世流君が、怪訝な顔をしました。
「笑ってしまって、ごめんなさい。私は気にしていませんよ」
世流君がホッとしたように微笑みました。
昨日の嫉妬に怒る顔といい――
幼い時から見ていますが、昔から大人びて表情の乏しかった世流君が、徹君と出合って、良い方向に変わっているようですね。
「今日のカップケーキは、ラムレーズンのショコラにしましょうか」
少し頬を染めた世流君が、控えめにコクリと頷きました。
ラムレーズンのショコラ味は、世流君の好物です。
「世流君も、ココア飲みますか?」
「……シナモンも入れてくれますか?」
「もちろん」
私はにっこりと笑って、世流君と一緒におやつの用意をしました。
――そう言えば、徹君の事が気になって、まだ優人にクリスマスプレゼントを渡していませんでした。
今夜は熱くなりそうで、少し楽しみです。
……END.
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