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三十七

 この家に久道さんという情報源が来たことで外での弘文の様子を知ってしまった。  今まで長いこと目を背けていた現実。  家の中でオレが作るレゴブロックやジグソーパズルの世界じゃない。  オレはおままごとの人形だ。  昔から思っていた。  下鴨家にとってオレは長男を産むまでの途中経過。  もうオレは居ても居なくてもいい。  木鳴家にとっても同じだと思うには弘文の祖父母のやさしさを知っていてできない。  やさしくされて、ゆるされて、オレは付け上がったのだ。    初めて弘文に会った時もそうだった。    やさしくされて、ゆるされて、叱られても受け入れてくれたから傍に居ようと思った。  弘文の隣で動かない人形ではなく自由で傲慢な人間として振る舞えた。自己満足でも幸せだった。      久道さんはオレが聞けば大体何でも教えてくれる。  業種は知らないが弘文の会社は軌道に乗っているという。  転校生を含めた学生時代からの知り合いとはじめた会社らしい。  メールで送られてきた写真は会社の打ち上げの風景か何かだろう。  思い返すと合コンにしては男の人数が多かった。  同窓会と思わなかったのは年配も見かけたからだ。 「偽装結婚は最低だとして、俺には関係ない話だろ」  真面目な弘文は子供ほしさに自分を誤魔化している。  子供を作るためには女の子が必要。  全寮制男子校には女の子はいないが妊娠できるオレがいた。  だから、代用しただけだ。  今更この事実からオレは逃げられない。  子供には親が必要で、オレが産んだからオレが親になる。  オレが必要ではなく子供を産んだ人間が必要なだけだ。 「だって、弘文はオレのこと好きじゃない……」  口に出したことで言葉が重くのしかかる。  心が砕け散りそうな気がした。  認めたくなかった。  弘文にとって自分がたいしたことのない存在だなんて知りたくない。  家族だから他人事じゃないと弘文は言うけれど家族だって他人だ。  他人じゃないのは自分だけだ。  自分以外はみんな他人で世界は他人ばかり。    他人からの愛情をオレはどうやら求めていたらしい。  傲慢だと封じ込めた願望が言葉になってしまった。  他人から愛されたいなんてどうかしている。    人から愛されるだけなら自分がいる。  オレはそれでは満足できない。  自分が自分を好きであることは当たり前すぎる前提でしかない。  そんなことで心は満たされたりしない。  自分が自分を好きなことで満足できていたならこんなに長々と弘文を追いかけ続けたりしなかった。

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