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四十一
ジッと弘文を見たが冗談だと笑いだすこともない。
ふと気づいてオレは「弘子以外の娘を作った?」とたずねると耳をねじきられかけた。弘文の視線が冷たい。
子供に手をあげたこともないけれどオレの扱いはいつもこれだ。ひどすぎる。
「康介、お前さっき俺が理想の家族を作りたいから結婚をしてるって言ったなぁ?」
弘文に名前を呼ばれると頭が回らなくなる。
ここぞというときにしか弘文がオレの名前を呼ばないからだ。
自分の名前が特別な響きになった気がして落ち着かない。
真面目に頭を使って考えなければならない場面で日常的に子供たちを抱きあげているせいで二の腕の筋肉がいいとか、そんなことを思ってしまう。
バレたらまた怒られるのについつい弘文の腕をなでる。
「俺の考える理想の家族の父親は浮気して余所で子供作るようなクズか?」
「そんなこと思わない、けど」
「けど、なんだ。聞くだけ聞いてやるから言ってみろ。おら、早く言え」
弘文は「怒らないで聞いてやる」とオレの頭を軽くなでた。
たしかに苛立った感じはないけれど、弘文の顔を見てられないので抱きついた状態で話を続けることにした。
うなじを指でくすぐられる。
弘文はちょっとした動作がエロい。
「転校生が」
「そもそも転校生ってなんだ。お前はさっきから、ドラマの話か? テレビか? ネットか? ゲームはわかるわけねえからな」
「弘文が生徒会長じゃなくなって少ししてから転校生が来ただろ」
弘文にとっては転校生は転校生という名前じゃない。
今もまだ付き合いがあるのだから当たり前だ。
出会いがあっちが転校してきたからだといっても写真で弘文の隣でピースして写るぐらいの立ち位置。
思い出すとはらわたが煮えくり返る。
手下にしてるならともかく年下の男が偉そうにすることを弘文が許すわけがない。
無礼講だといってもいつもの上下関係が酒の席では見えてくるとテレビで言っていた。
「転校生?」
未だにわからないのか、思い出すように弘文は「転校生」と繰り返しつぶやいた。
それもそれで気にいらない。
弘文にとって高校の記憶はどうでもいいこととして忘れている。
「弘文も生徒会のやつらもみんな一緒にいた。オレがひとりで副会長してたのに」
「はあ? そんな昔のことまだ根に持ってんのかよ。お前、変に根暗なところがあるよな。基本的に無頓着なくせに」
そんなに生徒会での仕事がいやだったのかとあきれた声がする。
弘文にとってオレの孤独感はどうでもいいことなんだと改めて思い知らされた。
オレの衝撃なんて弘文からすれば取るに足らないに決まっている。
知っていたはずだ。
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