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番外:下鴨と関係ない人「とある元不良B」1
とある元不良視点。
※番外編は時系列順に並んでいない可能性があります。
不良は嫌いだ。でも、中学や高校で俺は不良扱いをされていた。今更、過去を否定できない。
木鳴弘文という人は本当に格好良かった。
男が憧れる男を演じられる人だった。
そう、演じていたんだ。大人になった今ならわかる。
あの人はべつに男に憧れられたかったわけじゃない。
立ち振る舞いのひとつとして理想的な正解を選んでいたに過ぎない。
当時のあの人が欲しかったのが何なのか勝手な想像で語るなら「仲間」かもしれない。
自分の周りにいる人を大切にして、自分に声をかけてくる人もまた無下に扱ったりしなかった。
対立する相手にすら敬意を払って接する彼は格好良かった。
そんな彼が邪険にして追い払おうとしたのはたった一人だ。
変な女に言い寄られたり、血の気の多い奴らに付け回されても彼は余裕を崩さなかった。
きっとそれは彼の想像の枠の中におさまっていたからだ。こういった人間はいるだろうと思っていたに違いない。
下鴨康介。
木鳴弘文が唯一自分から遠ざけようとしながら失敗した人間。
妥協と割り切りで敵すら味方に変えていく木鳴弘文が下鴨康介だけをわかりやすく追い払おうとした。邪険にして距離を置こうとすればするほど下鴨康介は遠慮なく木鳴弘文に踏み込んでいく。
中学と高校で校舎が違って会えなくなったストレスからか下鴨康介の木鳴弘文への執着は普通じゃなかった。
高校生ともなれば毎日、外で遊びまわるなんてことはなくなるものだが、木鳴弘文は寮を抜け出していた。許可を貰っていたのかもしれない。彼はそれだけ教師からの信頼が厚かった。自分を探して下鴨康介が不用心に外を出歩くので学園に連れ戻す、そういった役割を買って出ていた可能性はある。
学園の校則を生徒がすごしやすいように改善する努力を木鳴弘文はしていた。
下鴨康介という規則から弾かれた者を自分の理想の道具にしていたなら、行動が奇妙に見えても木鳴弘文らしいと思えたかもしれない。
けれど、空気が変わっていく。
チームの中に派閥というものが出来ていく。
以前から人数が多い分、細かくグループがあった。
木鳴弘文に力を貸してやるという体(てい)で大学生たちもチームには参加していた。
年長として偉そうに仕切ったり木鳴弘文の名前で女を吊ろうとするゲスは久道さんが人知れず潰していた。
完全にクリーンな組織とは言い難くてもリーダーとして認められている木鳴弘文は社会からはぐれた子供たちの受け皿でありながら近隣住民や警察や教師などをきちんと味方にしていた。
不良や暴力はおそろしくとも木鳴弘文がリーダーであるなら集団で行動していても一般人である自分たちには危害がない。そう思わせることに成功していた。
この信頼を得る大変さを渦中にいる不良たちは誰もが知らなかっただろう。
幹部と呼ばれる久道さんをはじめとする学園の委員長たちなどは知っていたかもしれない。
苦労を悟らせずにいたからこそ木鳴弘文は格好良かったのかもしれない。
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