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番外:下鴨と関係ない人「とある不良A」

とある不良視点。 ※番外編は時系列順に並んでいない可能性があります。    木鳴弘文、ヒロさんはとんでもなく格好いい。    俺はリーダーと呼んでいる。  総長とか大将とも呼ばれるが幹部クラスに多いのはヒロという呼び方。  一番仲がよさそうな久道さんがヒロと呼ぶからかもしれない。  チームには大学生なんかも多くて幹部だけ固定でたまり場には毎日違う顔が揃う。    ヒロさんはヒーローだ。かつあげされている奴を助けたり、揉め事をやめさせたり、いじめっこをこらしめたり、弱いものを救ってくれる。人によっては神様みたいに思っているやつもいる。    教師、警官、優等生、善人、良い人、そういう奴らに苦い思いをさせられていた俺たちはみんな「いいこと」が嫌いだった。つまらなくてダサくて気持ちの悪いもの。    でも、ヒロさんが言うから街のゴミ拾いをしたり、壁の落書きを消した。誰かに頼まれても俺たちは聞かなかったに違いないが他でもないヒロさんが「汚い街も臭い空気も嫌いなんだよ」と言い放って率先して動くので、俺たちも見てるだけではいられない。    ヒロさんはヒーローになれないし、なる気はないというけれど、どこから見てもヒロさんはヒーローだった。    チームの空気が変わり始めたのは一人の男のせいだ。  気づいたときにはヒロさんの隣にいた。  ハリウッドのかわいい子役の髪の色や目の色を焦げ茶にした感じの見た目。  目鼻立ちはくっきりしていて、瞳は大きく、表情もどこか騒がしい。  肌は白くて海外スターを連想するのに髪と目の色はあかるくない。  感覚的にどこかの国のハーフなんだろうと思った。  むしろヒロさんの方が赤、緑、ピンク、銀と日替わりのように色を変えてド派手だった。    ヒロさんはあまり人を殴らない。  意外だが好戦的なのは久道さんの方で、久道さんが危なくなったら手を貸している。  自分から手を出す前に警告を与えて時には一発相手から先に殴らせてから相手を倒す。  相手のプライドを無駄に傷つけないように自分が勝っている時は相手に逃げる隙を与える。  また相手にちょっかいをかけられても気にせずまた逃がす。  いつの間にか喧嘩仲間のようになっていたり、気づいたらチームに居たりするやつが現れる。  ヒロさんは敵を敵にしなかった。    そんな血の気の多い奴の中でヒロさんは冷静で心が広かったのに一人の男で変わってしまった。  学校の後輩だというそいつは俺たちを無視していた。久道さんに話しかけられても答えない。  俺たちが「ケンカ売ってんのか」と詰め寄っても表情一つ変えないのにヒロさんには笑顔で抱きつきにいく。  ヒロさん狙いの女は上から下まで何人も見てきた。  四十や五十のババアにさえヒロさんは普通にモテていたが、邪険にすることはなかった。  ヒロさんはどんな相手からのラブコールにも軽口で答えるし、真剣な告白にはすぐに断りを入れる。  仲間同士でつるむのが好きだと言われるたびに俺たちは愛されてると盛り上がっていた。    けれど、ヒロさんは変わってしまった。  たった一人の男によってヒロさんらしさが失われたのだ。    そいつが誰かに絡まれると言い訳も聞かず警告もなくヒロさんは相手を殴りつける。  大混戦の乱闘状態であっても冷静だったヒロさんがそいつが居たせいで相手を病院送りにするぐらいに痛めつけた。  いつもは人から恨まれない喧嘩両成敗として笑っていられるぐらいの傷しか相手に負わせないヒロさんが相手を秒殺した。  強くて格好いいヒロさんを見れてテンションを上げる周りとは逆に久道さんや幹部は「こうなりゃ、ヒロも終わりかもね」と苦く笑っていた。    そして、変化していくヒロさんについていけなくてやめる人間と憧れてチームに入る人間と世代交代のように内部の人間が徐々に入れ替わる。久道さんはヒロさんと仲がいいままだったけど、数人の幹部のやつらは違った。  たった一人の男が疫病神だとわかっているので追い出そうとした。ヒロさんだって自分に近づかないよう、そいつに言い続けていた。そいつはまるで聞いていない。ヒロさんの膝の上に勝手に座って、ヒロさんの食べ途中のお菓子やご飯なんかを横取りする。    どれだけ世間知らずの子供でもこんな好き勝手はできない。  下にいる俺たちの空気が悪くなっているので幹部だって対応しなければいけない。  異物は叩きだすものだ。  ヒロさんだってそれを望んでいるはずだとみんな思っていた。    それなのに消えたのはそいつを嫌っていた幹部たちでそいつはヒロさんと一緒に居続ける。  悪い魔法にかかった、悪夢みたいな光景だ。  化け物にヒロさんがたぶらかされているに違いない。  みんながきっとそう思っていた。  アレは俺たちのヒロさんに必要のないものだ。    俺たちのヒーローは誰のものにもならないべきだ。  ヒロさんはみんなのヒロさん。  チームのことを一番に考えてくれる優しいヒーロー。    目を覚まさせてあげなきゃいけないと俺たちは最強最悪おさわり無用のヒナに声をかけた。

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