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番外:下鴨家の人々プラス「海問題2」

久道視点。  康介くんは色白な見た目の印象のままに肌が弱い。  日焼けすると真っ赤になってかわいそうなことになる。  だから、海の中に入らず浜でパラソルの中にいたりするのだが、暑さでだるそうにしている康介くんは艶めかしい。  中学の時はヒロがかわいいデザインのパーカーを着せていたりしたせいか、女の子と間違えられてナンパされていた。  康介くんのレベルなら男でもいいと思われたかもしれない。  下心あふれる男に貢がれる康介くんをヒロが放置するわけもなくちょっとした乱闘があったりした。  知らない奴から貰ったフランクフルトは食べない方がいいと康介くんに言ったら「カラシたっぷりで最悪」と半泣きでかわいかった。ケチャップ多めで頼んだのにカラシ多めで出てきたらしい。    康介くんは、からいものや酸っぱいものを食べると「あー」「うー」しか言えなくなるから、チーム内にはわざとこういう嫌がらせをするやつもいる。ガキだ。黙っていればかわいいというのは失礼きわまりない。康介くんは何していても大体かわいい。    高校は女の子に間違われることはなくても平和にはいかない。OLさんに逆ナンされていた。康介くんからするとヒロを追いかけようとする障壁として立ちふさがる女子軍団。夏の力なのか食われる勢いで海の家に連れて行かれて奢られていた。ヒロを呼んでしまうと女子の胸を凝視している姿を見なければならない。どちらにしても、たぶん苦痛。    俺やヒロ単体だと逆ナンを受けるがいつも周囲にいるのが、ごつかったり人相悪い男たちなので海で声をかけられることは少ない。ちょっと距離を置かれる集団だ。  康介くんは集団からちょっと離れたり、後ろの方にいて同じチームだと思われなかったりする。  これはヒロが悪い。  暑いからまとわりつくなと言って康介くんを遠ざけたりするからだ。  自分で連れてきておいて放置は酷い。  水着姿の康介くんに覚えたときめきを考えないようにした思春期的行動なんだろうけれど、俺がソフトクリームを奢って機嫌をとっていたりするとヒロのほうが不機嫌になる。    そして、中高の時代から二人の海での行動に変化はないんだろう。   「ここは久道おにいさんが一肌脱ぎましょう」 「やってくれるか、ひーにゃん!!」 「もちろんだよっ」 「ひーにゃんついてこないのに」 「えぇ!! ひーにゃん行けないの? 夏の星座とかメッチャ教えてあげるつもりだったのに」  俺の叫びに反応したのは長男と次男だった。  星に興味があるお年頃なんだろうか。   「夏休みの自由研究、三人でやって分割して発表しよう」 「兄貴も思ったか? 放っておいたら弘子はやらねえ、いや、終わらないかもしれないから、無人島にいる間に済まさせんのがいいな」    二人の中にある久道おにいさんが居なかったら妹は夏休みの宿題を提出しないに違いないという俺への信頼感、ガッツリ伝わった。  弘子ちゃんは集中力がないから漢字の書き取りを数十ページなど一気にやれない子だ。夏休みの大量の宿題を処理するには誘導が必要かもしれない。  これは弘子ちゃんが悪いというより、男子二人が子供らしくない集中力で予定表通りに動きすぎている。弘子ちゃんは年相応だと思う。   「ヒロくんは女の価値は胸と尻とくびれだって言ってた」 「コウちゃんはやらなくても死なないことはやりたくなるまでやらない」    両親が妹の教育にとって不十分な存在だと兄二人は判断したらしい。  俺は「久道おにいちゃん頑張って」という熱い視線を受けた。断るわけがない。弘子ちゃんに夏休みの宿題をさせる係として家族旅行に同行が許された。    実のところ俺が行くのは弘子ちゃんではなくヒロと康介くんがいちゃつくためだというのは気づいてる。  夏の夜空を見上げて仲良く五人目を作ろうが、ケンカしてようが俺には関係ない。    彼らは彼らの好きなように生きればいい。  今までずっとそうだったように。   「ひーにゃん、でかした! 見直した!! やってくれると思っていましたっ。ヒロくんを打ち取ったりぃ」    俺はただ矛盾した単語を詰め込んだかわいい褒め言葉が欲しかっただけだ。  座った俺を満面の笑みで撫でてくる弘子ちゃん。  無事に任務を達成した俺を盛大に褒めてくれる。   「よしよし、ひーにゃんは出来る子」    犬のような扱いだとヒロは肩をすくめるけれど、犬は家族の一員じゃないかと思うと楽しいものだ。  誰にでも心を開くタイプじゃない相手から気安く接してもらえると普通では得られない幸せがある。  最初から手に入れているヒロには積み上げた時間の分だけの信頼なんかが見えてこないのかもしれない。  それは俺だけの役得ってことになるんだろう。

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