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番外:下鴨家の人々プラス「海問題5」

下鴨弘文視点。   「いや、瑠璃川がそこらへんにうじゃうじゃいるのは知ってるってば。子供たちの学校決めるために見て回ってて結構会ったよ。鈴之介の幼稚園にも瑠璃川の子がいたんじゃない」 「そんなレベルの話はしてねえよ。お前が中高六年……いや、五年間ぐらい一緒にいた瑠璃川の話だ」    同級生である康介より俺の方があいつと親しいってどういうことだ。   「年賀状が毎年届いてるだろっ」    なおもピンと来ない康介にリビングの棚から弘子が年賀状の束を出してきた。  写真や家族関係の書類は置き場を決めている。  弘子が年賀状の中から一枚を康介に渡すが康介は首をかしげる。  違ったのかと年賀状を見つめる弘子に「あってる」と伝える。この一言で俺のタマシイが口から抜けていきそうだ。   「もう弘文はオレを万能超人だと勘違いしすぎ」    不貞腐れたように唇を尖らせる康介は弘子から渡された俺のケータイを見る。  弘子が康介に俺のケータイを渡したのは自分のケータイが他人にかからないと知っているからだ。  年賀状に書かれた電話番号は電話帳にも載せている実家のものだろうから俺のケータイのアドレス帳を見るのが良いと思ったのかもしれない。  タマシイを飛ばしている間に「瑠璃川 後輩」と登録している番号に康介は電話を掛けた。   「もしもし、下鴨康介です」 『は? え、先輩のケータイ? え、マジか』 「下鴨康介だって言ってるだろ、言葉が聞き取れないほど電波状況が悪いのか」 『んだよ、もう。何年振りかってのにそれかよ』 「そのことだが、誰? 弘文の言う通りオレのこと知ってるみたいだけど、オレは知らない」 『冗談やめろよ』 「まあ、それはいいとして、瑠璃川の中に小学校高学年の女の子いる?」 『いるけど。俺の姪っ子かな。……じゃなくてだ、俺のことを知らないってなんだよ。ありえねえだろ! てめぇ、ヒロ先輩出せよっ』 「……………………あ、会長か」 『沈黙しすぎだろ! 電話が切れたかと思ったわっ』    音量を上げているので通話相手の声が耳に当てなくてもしっかり聞こえる。  かわいそうな瑠璃川はきっと電話の向こうで泣いている。  あいつは真面目なやつだからショックも大きそうだ。  本人じゃない俺だって未だに立ち直れない。   「ぬぐいきれない三下の香りがする」 『そんな覚え方してたのかよ』 「弘文の型落ち品」 『それはそれで光栄なような……』    照れくさそうな瑠璃川の声に改めて良い奴だと思った。   「オレにとって会長は弘文だけど面倒だから会長のことは会長って呼ぶわ」 『今後一切、俺の名前を記憶しない宣言本当にありがとうございます』 「礼には及ばない。それで、会長の姪っ子がうちの娘に無人島プランを提案してくれた」 『あぁ、迷惑だったか? おじちゃん、おねがいって言われたから夏休みのいつに来てもいいように準備できてるぞ』 「おじちゃん呼びされてんの? 老いぼれ?」 『同い年だからな!!』    康介のあんまりな発言に笑えないが瑠璃川はなんだか嬉しそうなのでやっぱり気心知れた仲に見える。  弘子が康介の服の裾を引っ張った。   「礼儀正しいうちの娘があいさつしたいって」 『お、おう?』 「お電話かわりました、下鴨弘子です。今回はわがままを聞いていただきありがとうございます」 『いや、全然大丈夫だよ。俺はお父さん? えっと、お母さん? とは中学高校と一緒のクラスで生徒会でも世話になってたよ』 「不躾なお願いまことに恐縮ですが、お時間頂戴できるのでしたら無人島に来てください」 『はい?』 「細かいスケジュールに関しては、あなたさまに一任しますので私のために時間をとってください」    突然の弘子の言葉に康介は「弘子が会長をナンパしてる」とバカみたいなことを言っている。  これはそういうことじゃない。久道に懐いているのと同じだろう。  弘子から自分のケータイを奪って「俺だ」と告げると情けない声で「ヒロ先輩ぃ」と返された。   「どうやら娘は康介の学生時代が気になるらしい。会ったら話してやれ」 『それ、俺が行くのも言うのもまずいですよね。ホントに大丈夫っすか?』 「久道に会いたいなら時間作っとけ」 『そこ持ちだすのずるくないっすか。俺がずっと避けられてるの知ってるくせに』 「顔を合わせる良い機会だろ」 『嫌われ度合いが上がるだけな気が……。あ、無人島の件といえば仕事頼めます?』 「大口はいらねえって言ってるだろ。隙間産業で大手と競合せずにやってきたいんだよ、俺たちは」    仕事の話は家でするつもりがないので「細かい話はあとだ」と一旦電話を切る。  弘子に大丈夫だと告げるが未だに不安げな顔をしている。   「ひーにゃんの嫌な人だった?」 「弘子が呼んだって言えば文句は出ないだろ」 「それはダメ、ダメなパターン!! 権力を笠に着て民衆を従わせるのは恐怖政治なのっ」 「あの変態は弘子に踏みつけられたいって言ってるだろ」 「ものには限度がありんす」    弘子が「あやや~」と謎の言葉を発して自分の部屋に去っていく。  康介が瑠璃川を知らない人あつかいしたショックが抜けきらずに失敗したかもしれない。  久道に何かを言われたら弘子を盾にして逃げるしかないが、おとなしく盾になってくれる娘でもないので埋め合わせは考えないといけない。

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