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番外:下鴨家の人々プラス「海問題4」
下鴨弘文視点。
パンフレットを見ていて俺はふと気づいた。
「これ、提案してくれた先輩って瑠璃川か?」
弘子はうなずいて委員会が一緒だと教えてくれた。
瑠璃川は資産家で有名だ。
無人島の一つや二つ、個人で所有しているだろう。
金儲けをしようとしないせいで逆に儲かったりしている一族で日々、個人資産が増えている。
あたらしいビジネスにも比較的すぐに参入する。破産しても一族の誰かしらがフォローを入れてくれるので借金苦なんてことにはならない。
何より気になるのはパンフレットの写真に見覚えがあった。
「先輩は瑠璃川ですが、それが?」
「瑠璃川ってうじゃうじゃいるよね」
「いねえよ。お前は黙ってろ」
弘子が首をかしげるのはともかく康介の相槌はおかしい。
瑠璃川を何だと思ってるんだ。
不安そうな顔をする弘子に「違うんだ」と訂正する。
「瑠璃川はいいやつらだよ。人に騙されやすいけど、自分から人を騙したりしないし、金持ちすぎてズレてるやつ多いけど」
「そうであろう、そうであろう。先輩ちょっとおかしいけど善意の人よ」
弘子は先輩が好きなのか笑顔でうなずく。
ちょっとおかしいというのは金の使い方が荒いとかではなく、常識を無視したり発想が突飛ということだろう。
ある意味、康介と似ているのかもしれない。
瑠璃川にだって稀に真面目なやつや常識人がいるが例外なく苦労している。
「海に行きたいって話をしたら無人島を教えてくれて。最初は海外の別邸に一緒に行こうかって。それはちょっとって言ったら、これはって」
「弘子モテてるね」
「女の先輩だよ、コウちゃん」
「瑠璃川で女ってことは相当甘やかされてんな」
比較的、生まれてくる子供には男子が多い。
跡継ぎとしては男がいいのかもしれないが、自由人な男たちは家を守ろうという気がない。
瑠璃川の女子は確実に婿を貰い受けるが男子は自由恋愛しすぎてフラフラしている。
女の子の方が一族の中で大切にされるのもわかる。
「女の瑠璃川はどんな無理でも押し通すからな。一族がそれを許してるからだが」
「先輩に迷惑?」
「いや、大丈夫だと思うがあっちの事情も聞いた方がいい」
「弘文は何が言いたんだよ! 弘子の先輩が独断専行で勝手なこと言ってるなら予定はキャンセルでしょ。先輩がちゃんと段取り組んで、こっちにプランを渡してくれたなら無駄に不安をあおってるし、失礼じゃないか」
今回に限っては俺が悪かった。
弘子がしょんぼりしているので康介の言い分が正しい。
海に行くのがわがままだという自覚があるのか、いつになく遠慮がちだ。
「子供に気を使わせんなよ」
お前に言われたくないと喉元まで出かかる言葉を意識して飲みこむ。
康介は日常的に子供にフォローを受けているやつだが、今のような微妙な空気をカバーするのが上手い。
落ち込み気味だった弘子を「まったく弘文は心配性なのか雑なのかわかんない」の一言で笑わせている。
「海に行くのは別に好きにしていいじゃん。弘文いないなら久道さんとオレたちで行くし」
「コウちゃんそれは……ヒロくんがかわいそうだよ」
「こんな弘文思いなこと言ってる弘子を責めるとかないでしょ」
「責めてねえよ。ちょっと、瑠璃川が噛んでる話ならあっちに連絡した方がいいと思っただけだ」
「あっち? 弘子の先輩?」
「俺の後輩……お前、まさか。マジか!?」
別に弘子を責めたわけでも、無人島プランが胡散臭いと思ったわけでもない。
ただ瑠璃川が噛んでいる事業にかすめるなら知り合いに連絡を入れるのが筋だと考えていた。
「噛み合わねえと思ったらお前、瑠璃川のこと忘れたのか!?」
「忘れたって何が?」
「いや、だから瑠璃川だよ」
「金持ちのボンボンたちだろ。知ってるって」
「一族の話じゃなくて個人的な知り合いの話だ。ホントに忘れてんのか。この人でなしがっ」
「ヒロくん落ち着いて、コウちゃん本気でわかってないから」
康介が転校生がどうとか言い出した時と同じ衝撃を受ける。
ちょっとやそっとではあのインパクトを超えることはないと思っていた。
そのぐらいにあれは「嘘だろ」と思ったが、まさかだ。
「まさか瑠璃川が目に入ってなかっただと……。お前、俺より一緒にいただろ。友達じゃないのかよ」
瑠璃川のことを思って泣きそうになってしまった。
そのぐらい康介の反応は俺にとってありえない。
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