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番外:下鴨家の人々プラス「海問題7」

久道視点。 「コウちゃんを下鴨下鴨と言いますが、ここにいるみんな下鴨なんですけど」 「え、久道さんは」 「……まあ、ひーにゃんもすでに下鴨のようなもの。下鴨である私に従属するのが喜びなので準下鴨」 「下鴨に準とかそういうシステムないけど久道さんが良かったらオレの子供にしてあげようか」 「何この展開っ!! 喜びで死ねる! でも、ヒロが父親はちょっとね」    顔を手で押さえて「きゃー」と言っていると弘子ちゃんも一緒に「きゃー」と混ざってくれた。深弘ちゃんは俺たちの仕草だけ真似して無言。息子二人は出かける準備をしていて俺たちのやりとりは無視だ。  何を思ったのか瑠璃川に軽く「今日はおねがいします」と頭を下げている。礼儀正しい子たちだが、俺はそんな扱いを受けた覚えがない。準下鴨だからかな。   「ま、会長のことはうるさい空気だと思って適度に無視しつついくよ」 「俺に金を払わせる気なのにそんなことよく言えたなっ」 「お昼は食べたけど、どこかでおやつ、立ち寄ろうか」 「早速、無視しただと!?」    瑠璃川のツッコミを一切触れずに深弘ちゃんに出かけるように帽子をかぶせる康介くん。弘子ちゃんが深弘ちゃん用の靴を持ってきてつけてあげている。これ以上になく和む癒しの空間だ。   「じゃあね、弘文。オレは会長に命を預けてくる」 「やめろ。安全運転に決まってるだろ」 「ゴールド免許だぞ」 「ペーパードライバーと同義か」 「なに、この()怖い!!」    弘子ちゃんのツッコミにたじろぎながら、ヒロにあいさつをして出ていく瑠璃川と康介くんと子供たち。  俺も行かなければいけないけれど何だか癪に障った。   「どういう心境から? リハビリっていうなら最悪だね」 「ここ何年も転職失敗してるだろ」    痛いところを突かれた。  仕事が長続きしないわけじゃない。  トラブルが起こってしまうと嫌になって投げ出してしまう。  社会人としてまずいのだが、空回っている。  仕事のない時期にこの家に入り浸って、それで気持ちを楽にしていた。  いつまでも続けられるわけがない。ここはヒロの領域であって俺の場所じゃない。ヒロが作り上げたヒロの場所だ。   「うちに、うちの会社に来るか、それが嫌なら瑠璃川のとこで雇ってもらうのもいいんじゃねえか」 「余計なお世話って言いたいけど考えておく」    瑠璃川と話す康介くんを見て引っかかっているのは俺だけなのかもしれないと冷静になった。  いいや、最初から分かっていたことだ。  康介くんにとって価値があるのも感情を揺さぶるのも全部ヒロ。    だからこそ、思い出しても胸が締め付けられる。  一人の生徒会室で康介くんは泣いていた。  役員たちがアレの周りにヒロと一緒にいる間ずっと康介くんは一人だった。  一人であることなど気にならない、そう思われていた。  仕事を押しつけられていることすら意に介さないような康介くんが泣いていた。  俺はあの日、何と言っただろう。何が言えたんだろう。  うすっぺらな慰めの言葉だっただろうか。真摯に相手に寄り添ったアドバイスだったのか。  その後の康介くんの言動によって俺はあの日の記憶があいまいだ。    康介くんの涙よりもインパクトのあるものを見てしまった。  だが、それとはべつに康介くんの涙が許せなくもある。  追い詰めることを意図して、仕掛けられていた。  全容を知らなくても片棒を担いだ瑠璃川に悪感情がないわけがない。  会長のくせに生徒会室を開けて副会長の康介くんを一人にした。  あいつがいたからといって康介くんの心を慰めることなんて出来るわけもないのは知っている。  ヒロじゃないとダメなのはわかってる。    それでも、康介くんの気持ちとは関係なく俺があいつらを許せない。  数年前にヒロを集団でどうにかしようとしてたやつらも、康介くんが泣いたあの時も気持ちが悪い粘りつく悪意の香りがする。悪いことをしていると思っていない実動部隊とそれを上から見ている悪意のかたまり。  悪意を愛と言い換えようとする自己満足を極めた連中には不快感しかない。

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