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番外:下鴨家の人々プラス「海問題8」

久道視点。  いろんな店を回って水着だけではなく夏用の洋服も買う。  ヒロを無視して康介くんの水着や服も買った。露出が激しくないので文句は言われないだろう。ヒロの目に触れて何分で着替えさせられるか弘子ちゃんとこっそりと賭けをする。  康介くんは服装を気にしない。  あえて言えば、疲れるから布地が重い服や子供を抱き上げるときに当たってしまう金具がある服は着ない。    髪型も弘子ちゃんが小さいときは引っ張られるからベリーショートにしていたが、深弘ちゃんはおとなしいので伸ばしっぱなしだ。  帽子かぶったりサングラスをつけていればヘアースタイルが雑でも気にならないだろうという考えだ。  学生時代のイメージが強いせいか瑠璃川は長めの康介くんの髪の毛が気になるらしい。   「前髪だけでも切らないか」  車の中に入って次の目的地の話をする中で瑠璃川が切り出した。  あらかた買い物は終わったので休憩などするタイミングだ。 「美容院って鼻がムズムズするんだよね」 「喫茶とくっついてるところがあるから、子供たちが食べてる間に切ってもらえば」 「人の体調ガン無視とか本当、会長って根っからのクズだ」 「俺の心遣い全開の言葉を無視するお前に言われたくねえな」  瑠璃川の苦々しい声にも康介くんの表情は変わらない。  寝ている深弘ちゃんを隣に座る弓鷹くんに渡して、開放的な格好の弘子ちゃんを注意する。  弘子ちゃんは車の中で靴を脱ぎがちだ。康介くん的に靴は許しても足を大きく開くのはNGらしい。  だらしがないではなく「骨盤が歪むからダメだ」という注意の仕方は子供を産んでいるからこそなんだろうか。 「……弘子」 「不肖、この下鴨弘子、追随させていただく所存」 「ときどき現れるこの()の謎口調はツッコミ入れるべきなのか」 「突っ込みたいのならいくらでも突っ込みなさい! この変態ロリータ趣味っ!」 「どういう罵り方だよっ。こえぇな。外で言うなよ」 「あなたの助手席に座るひーにゃんはスカートの中を秘密の花園と表現する変態ですよ」 「そんな事実知りたくないんだけど。やめてっ」    康介くんとのやりとりを見て完全に瑠璃川への対応が出来上がっている弘子ちゃんに内心で拍手を送る。   「弘文が引き千切ったりするから弘子の枝毛が気になるんだよ、オレが」 「元々細くて切れやすい髪質ですのでロングに向かない私なのですね」 「へぇ、自分のことよくわかってんだな」 「毎朝ずっとヒロくんに頭の上であーあー言われ続ければ気にもなりましょうよ」  溜め息を吐きながら長男である鈴くんの髪の毛をちょいちょい引っ張る弘子ちゃん。  鈴くんの方が髪に腰があるかもしれない。弘子ちゃんは猫っ毛な感じだ。 「マジでヒロ最悪だわ。長い髪、かわいいのに」 「なあに、ひーにゃんは短い髪の私はかわいくないって言うの」 「そんなことありません、姫! 姫はどんな髪型でも花の顔(かんばせ)にございます」 「よきかな、よきかな」    助手席の俺と三列目の後部座席にいる弘子ちゃんとのやりとりに瑠璃川は運転席で微妙な顔をする。  弓鷹くんが冷静に「ミニコントはいつものことなんで」と告げるともっと眉を寄せた。  たしかに昔の俺のイメージじゃない。子供と仲良く会話するなんて瑠璃川からすれば信じられないだろうが、これが今の俺だ。  それだけ、あのころから時間が経ったということになるが、変わらないものも多い。  大人になったつもりでも、なかったことにはできない過去がある。  

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