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番外:下鴨家の人々プラス「海問題33」

久道視点。  ヒロとヒナ以外はもれなく迷彩柄の服と猫耳というヘブン。  弘子ちゃんがヒナを知っていたことも、康介くんに近づけたのも意外だった。  信頼しているというよりも犬に上下関係を教えるような行動に出た上で康介くんのとなりには弘子ちゃん自身を配置した。    俺やヒロではなく自分を康介くんの盾にするつもりでいるのはある意味とても賢いのかもしれない。正直、ヒナとはいろいろとしがらみが積み重なっている。ヒナ自身が単純なやつなので全てを脇に置いて俺に酒を奢ってくれるような人間だが、善人ではない。気に入らなければ子供の手足などへし折る。比喩や噂ではなくヒナはそういう人間だ。    いくらヒロが自分の目の届く範囲において行動を抑制し続けてもヒナの根本的な部分は変えられない。ヒナの根本は暴力的ということじゃない。病的な人間不信だ。    そして、俺とたぶんヒロも結構な人間嫌いなので俺たち三人は仲良くなくても「言いたいことは分からなくもない」というゆるい共感の中にいた。    ヒロは仲間の枠に入れたやつの言動を否定しない。全部肯定的にとり、良い方に解釈していく。これは心から信頼しているわけではなく尻尾を出すのを虎視眈々と狙う性格の悪さがあると思う。ヒロは人を手のひらの上で転がしたり、利用することを躊躇ったりしない。    俺が溜まり場から追い出したり、ボコったやつの詳細をヒロは聞いたことがない。俺の判断を信じているなんて、そんなにわかりやすくかわいい奴じゃない。  ヒロはいつだって本音と建前の使い分けが上手い。時には自分すら騙すほどの大嘘吐きになれる。嘘に慣れてしまっている。    ヒナはヒロと比較すると単純すぎてめまいがする。気に入らない奴は殴る蹴るねじ切る。ヒロがチームの人間たちと清掃活動しながら絆を深めているのとは逆にヒナを徒党を組まない。ヒナを慕う人間は正直ただのストーカーだ。病的な人間不信者なのでヒナに話しかけたりヒナの前に出ずに付き従う。    ヒナの言動に惹かれたらしい集団だというのにヒナ自身に認められていないというかわいそうな奴らだ。ヒナに喧嘩を売ったらここぞとばかりにヒナに自分たちの存在をアピールしようとして警察沙汰になる暴行すら辞さない。ヒナにちょっかいを出すのは蜂の巣に石を投げるようなものだ。触らない、見つめないが当時、街を歩くヒナの注意書き。    外へのアプローチがまったく違う二人が同じ職場にいるのはどう考えても康介くんが理由だろう。ヒナは単純なので行動の理由さえ作ってしまえばいい。ヒロは人を使うのが上手いので悪くないコンビだ。周囲が二人の関係を理解するかはともかく。    ヒナと康介くんに面識があるのは驚きだ。てっきり全く知らないのだと思っていた。あんなにちゃんと分かるなんて、街中であれだけ無視していたことが何だったのかビックリする。    心当たりがあるのならバンダナとサングラス姿の人間をヒナと認識していた、バンダナとサングラスのないヒナを知り合いだと思わなかったということだ。俺もうっかり予告なく髪型を変えたら康介くんに認識されなかったことがある。ヒロはどんな髪型でどんな髪の色で周りにどれだけ人がいてもすぐに見つけるのとは正反対。ヒナと俺でうまい酒が飲めるわけだ。  

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