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番外:下鴨家の人々プラス「海問題32」
下鴨弘子視点。
「あー、これ珍しくないんだぁ」
肩を落とすコウちゃんは知らないものがいっぱいだ。
写真をいっぱい撮っていっぱい瑠璃ドンに送るコウちゃん。
本部で写真の詳細を調べなければならない瑠璃ドンへの嫌がらせではない。
コウちゃんはどこにでもある花の名前も知らない。
私が乙女らしく花言葉の本を入手して、せっせと押し花でしおりを作ってみてもコウちゃんは意味を理解しない。
これ見よがしに花の名前の本や花言葉辞典を置いていたのに調べもしないのは衝撃的だった。
ショックだったんじゃない。
驚いたのだ。
私だったら絶対に調べる。だって自分の手の中に何があるのか気になるもの。
コウちゃんはそうじゃない。あるがままを受け入れるといったら聞こえはいいけれど、深く物事を受け取ろうとする気がない。誇らしげな顔をした娘のドヤ顔の意味がしおりを作った自慢だと思っている。私は花に乗せたメッセージに満足して胸を張ったのだ。
隠されたメッセージがあることすら読みとられることがないなんて予想もしていなかったのでビックリしてしまった。
驚愕と共に私は下鴨康介という人間がどういった存在であるのか再定義する必要に駆られた。そうでないと親自慢大会において辛苦を舐めることになる。
私は私のコウちゃんが世界一だと証明しなければならない。「お前の親って抜けてない? やばくない? 変じゃない?」などという雑なラッパーもどきの軽口を甘んじて受けることは許されない。
そこで心強い助っ人であるお雛様。
お雛様とは私がろくに言葉を喋れなかったときからの知り合いになる。
お雛様は私にひな人形セットを贈ってくれた人だけれど、ヒロくんが不吉だからとひな人形は一度しか飾られなかった。
ヒロくんの交友関係イコール私の知り合いという話ではなく、お雛様はヒロくんのケータイに電話をしてくる。ひな人形セットについても本人から届いたのか聞かれた。声に驚いて通話は切ってしまったけれど、以降何度となくお雛様はヒロくん宛てに電話をして人知れず私と会話している。会話と言ってもお雛様が一方的に話しているだけで私には意味の分からないことも多い。
私が物心つく前から繰り返している習慣としてヒロくんの周辺の連絡機器をしまうという行動に罪悪感がないわけではない。大変なことになったらどうしようとは常々思っている。ヒロくんがお金儲けできなくなり家族が離れ離れになる未来を脳裏に描き、身震いする。
実際は家族が離れ離れになるなんてことはない。ヒロくんが無職になっても私たちは問題なく下鴨基金により生活できる。
下鴨の本家は所得に応じて親族からお金を巻き上げている。下鴨を名乗る限り下鴨の恩恵を受けているということなのでみかじめ料は必要だ。本家としての感覚的には所得税なのかもしれない。
私もコウちゃんの娘として最終的に親族からお金を巻き上げる役職になりたいと日々、下鴨のおばあちゃんに探りを入れているけれど、下鴨の血筋ではなく外から嫁入りしたせいか内情に疎い。おじいちゃんは当主として多忙を極めているようなので会いたいと思って会える人じゃない。
寝ているだけで小金持ちどころか大金持ちなコウちゃんの秘密を解き明かしつつ、サポートしていきたい。この辺りは聡明なる次男が変な潔癖っぷりを出して触れると不機嫌になるので家の中で気軽に口に出せない。
「未知の植物を求めるのならアマゾンの奥地に行くが早し」
「こら、弘子。お前があきらめてどうする」
「コウちゃんの独裁により虫じゃなくて植物撮影になったけど、いいのなんてありませぬ」
「コウちゃんはあんなに撮ってる」
「むしろコウちゃんは撮られてる」
シャッター音がしないのにカメラでコウちゃんが撮られ続けているのを感じる。
お雛様の熱意にいやが上にも期待が高まる。
最悪、ヒロくんとひーにゃんのお宝映像をメインにしてセクシーショット満載でお届けしてもいい。コウちゃんが魅力的だという事実を補強する材料ならどの方面のものでもいい。
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