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「海問題 久道にとっての現実と真実8」

   男でも女でも付き合う相手が急にストーカーになっていく。  執着心が強いとかそういう話じゃない。わりきったセフレとしての付き合いのはずが泥沼になる。  康介くんの影を求めたからという訳でもないはずだ。康介くんのヒロへの執着は並外れたものだけれど、一方的に見えてヒロが許さない場所までハミ出ることはなかった。考えなしに見えて頭がよかったのだろうか。    結局耐えられなくなって死に方ばかり考えていた時にヒロが俺を自分の家に連れて行った。  ヒロはいつだって他人に居場所を与えようとするやつだけど、さすがにこれは特別扱いがすぎる。そんなに俺はヤバイ状態なのかと軽口も叩く気力もなかった。    詳しいことを何も言わなかったけど、ヒロの気持ちは分かってた。康介くんを俺にくれることなんかないけれど、俺を見捨てることだってないって、そういうことなんだって分かってる。康介くんが俺と仲が良すぎるとヒロに怒ってみても無視。ヒロにとって友達や仲間の力になるのは当たり前のこと。結果として康介くんを蔑ろにすることになっても気にしないのは康介くんが自分から離れないと思っているからだ。    喧嘩してもすれ違っても康介くんはヒロの言動を肯定的にとらえる。自分を優先しろと訴え続けはするけれど、仲間に優しいヒロらしいところが好きなんだと結論付ける。  だから、俺は納得していたのに転職先の誰かしらと恋愛や交友関係でトラブルが起きる。人恋しさに手を出すことをやめたのに失敗する。    最初からどこかおかしかったのかもしれない。    ヒロが俺を見捨てないという前提で誰かが俺を窮地に陥れたんじゃないだろうか。これは妄想なんだろうか。  逆のことが起こって俺は自分が蛇の腹の中にいることを実感した。    消防車のサイレンの音を聞きながら「ひー君がいたからヒロは助かったね。ひー君のおかげだね」と俺を褒め称える幻聴が聞こえるようだった。    ヒロを襲った男女は昔に俺と関係があったやつらだ。正確にはヒロに手を出そうとしていたから先に俺が自分に引き寄せておいた。ヒロは恋愛系統に潔癖で精神的にも肉体的にも心底ダメだった。俺は平気だから味見がてらヒロから俺に興味を移させておいた。ヒロのために犠牲になったとは思わない。持ちつ持たれず適材適所だ。いつもの俺たちだ。    だが、このしっぺ返しの食らい方は意図的じゃなければ神がかりすぎている。    誰もが悪いことをしていると思っていない。アレとかかわった人間たちは自分が正しいことをしていると思っている。それが気持ち悪くてたまらない。    悪意を愛と言い換えようとする自己満足を極めた連中には不快感しかない。    でも、そのたびに思い出してしまうのは「うれしかったよね」という一言。    生徒会室で泣いた康介くんが俺を頼ってくれて嬉しかった。  ストーカーに悩まされて苦しんでいたのをヒロに助けてもらえて嬉しかった。  かわいい子供たちのいるあたたかい家庭というものがあるのを知れて嬉しかった。  ヒロを助けるために昔みたいに何も考えずに動ける自分がいて嬉しかった。    子供たちや康介くんに信頼してもらえて嬉しい。    ヒロや康介くんたちが与えてくれる善意や優しさを自分の手柄のような顔をするアレを義理でも兄だなんて思えるわけがない。    

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