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「海問題 弘文による康介の考察という名の」
下鴨弘文視点。
テントの中は大人二人、子供三人という家族で使える広さということなのか、狭くない。
狭くないせいで康介がべったりくっついてくる。
俺の服に一緒に入ろうとするように頭を突っ込んでくるので「テントから追い出すぞ」と言ったら「やだやだ」喚きだす。
頭を撫でて数時間前に康介が猫耳をつけていたことを思い出す。
康介はどこからどう見ても人間だが、猫のように狭いところに入る習性があるのかもしれない。昔から俺とソファの隙間に自分のサイズを考えないで入ろうとする。酔っぱらっていなくても言動がおかしい。
俺と誰かが普通の距離で話していて康介が妨害することはよくある。
これは誰かと話すために適切な距離感を保っていたのを隙間を見つけた気分の康介が居座るというのが正しいのかもしれない。
人と話すのにわざわざ密着する人間なんかいない。
俺は特に殴り合ったりということでもなければ積極的に人に触れることはない。
それなのに康介は遠慮なしに抱きつく、隣に座るという異常行動を起こす。
今はともかく昔はうんざりさせられた。
そして、俺はどうやら今回、面倒な感じの康介を完全に復活させたんだろう。
明日から疲れそうだが、深弘がいるから頑張れる。
自己主張が薄く静かな深弘がいると康介は適度に大人しくなる。深弘には沈静効果があるのかもしれない。
「なにかんがえてんの」
すねた顔で指を噛んでくる康介に「世界で一番かわいい子のこと」と返す。
なぜか表情を明るくして瞳を輝かせた。
「オレのこと!!」
「なんでだよ」
酔っぱらいはどうしようもない。
「お前がかわいかったらカワイイの基準が壊れる」
「オレを標準的なかわいさにしたら下々が大変だってことか、わかる」
「うるせーよ、ナルシストか」
康介のおでこを突っつくと「弘文けっこう面食いじゃんか」と笑う。
酔っぱらいは自信満々に顔を近づけてくる。何もせずに放置すると「キスするとこっ」と訴えてくる。
「俺はかわいいより美人派」
「セクシー好きめっ。……あ、弘文的に久道さんプレゼンツなこの服は?」
「夏だからタイツとかじゃないストッキングがいいな」
「脱がしたい?」
明るく言われるとムードがない。「ストッキングつけたままもありだな」と返しながら破り捨ててやろうかと思った。
テントの中にはパジャマ一式がそろっているどころかコンドーム、ローション、かゆみ止め、消毒薬などもあった。
シュラフを下敷きにしてもテントの床は多少異物を感じる。普通に寝るなら気にならなくても激しい動きをするとどこか怪我する可能性もある。
「康介、俺の上に乗れるか」
寝そべるようにする俺の上に寝転がる康介。そういうことじゃない。
セクシーさの欠片もないことを平然とやらかす。
「弘文の肉布団で寝るって話じゃないの」
「参りましたって言わせたいんじゃなかったのか。酔っぱらいは自分の言葉を忘れたか?」
「覚えてるけど……、オレ、自分で入れるのいやだって、言った」
「言ってない」
断言する俺に「そうだっけ」と首をかしげる姿はちょっとかわいかった。
酔っぱらいなので判断能力が低下してる。
康介に主導権を渡すふりをしてあれしろ、これしろと注文を入れてみる。
意外に面白い。
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