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「海問題 下鴨康介の欲求1」
下鴨康介視点。
オレは弘文にへばりついていたい。ギュッとくっつくなんていう表現では生ぬるい。中学の時に弘文から静電気でくっついてくる髪の毛みたいに厄介だと言われたことがある。
一時期、結べるように弘文が肩口ぐらいまで髪を伸ばしていた時期があった。
抜けた髪が服にくっついていることが嫌になったのか短髪にしてしまった。目立つ髪の色にしていたせいもあると思う。
静電気で指先にくっつく髪の毛が気持ち悪いというか気になるものの代名詞であるのは間違いない。そういったものに例えられるようなオレが弘文を押し倒している体勢になっている。黒い服に黒い髪がくっついていても気にならないという感覚なんだろうか。
「神経質ずぼら」
「お前と違ってデリケートかもしれないが、神経質でずぼらなのはお互い様だ」
オレは神経質でもずぼらでもない。
弘文が神経質でずぼらだから合わせているだけだ。
そういったオレの情緒を考慮しない弘文は雑で適当極まりない。
性的な欲求を刺激されるというのがどういったことかオレはよくわからない。弘文のエッチな視線にドキドキするのが性欲の高まりなら、今、エッチをしたくなったのかもしれない。気恥しさより弘文を下敷きにしている小気味よさがある。
食欲と性欲が似てるならオレは今とんでもなく性欲をあおられている。
いっぱいご飯を食べたし、アイスのせいでさっきまで胃が重かった。
それなのに空腹感から口の中に唾液がたまる。
上半身を起こした弘文の口を開けさせて舌を甘噛みする。
舌を舌で舐めまわして、吸って、噛んでいく。
弘文がビックリしているのが身体の硬直具合からわかる。
唇や口の中じゃなく舌だけを徹底的に愛撫する。
力を入れている硬く尖った舌が噛んでいく刺激でやわらかく緩む。
食べ物を味わうために使われる弘文の舌をオレが乗っ取った。
弘文は今、オレの味しか感じていない。
征服完了と旗でも立てて弘文の舌はオレのものだと言葉にしたくなる。
唾液をすするようなオレに眉を寄せる気配があるが、好きにやらせてくれる。
強めに歯を立てても、うなじを撫でる形で抗議されるだけで引きはがされたりしない。
弘文の舌を噛みきってしまいたい気分になる。
もちろん、そこまでの力は入れないけれど、普通ならできない他人の舌を噛む行為が楽しい。食欲と性欲を同時に満たしている気がした。
抜け落ちた髪の毛がゴミとして払われているのに静電気でくっついている状態とオレが弘文を食べたいと思う気持ちは同じかもしれない。
髪の毛はまだまだ弘文の頭部に居座っていたかった。
だから、へばりついている。
「たべたい」
「アルコールで食欲が刺激されたのか? 錯覚だ」
水を飲むと空腹感が落ち着くなんていう色気も何もないことを言いだす弘文。
なんにも分かっていない。
弘文の血肉を取り込んで一体化したいという気持ちは間違っているからこそ、抜け落ちた髪の毛とオレは似たようなものなのだ。
「で、どっちに入れる」
気づくと弘文とオレのズボンと下着はすこしずらされて性器が露出していた。
二人して勃起しているのに落ち着いたふりをして相手を見つめている。
素直な身体は弘文を欲しがるように足を開いている。
弘文が欲しいというのが前提だから、どっちだって、どうだっていい。
痛くたっていいし、気持ちよさなんかいらない。
弘文と一緒にいる時間を身体に刻み付けたい。
「……ん、なんだよ。挿入しなくても気持ちいいって?」
「あぅ、あっ、らって、だ、って、……ひろふみの、えっち」
いつも弘文に押し倒されてオレは見上げている。じっくり見すぎて恥ずかしいと苦笑されるほど見ている。それを弘文がやり返してくる。オレがどう動くのかを視線で追いかけてくる。
勃起した男性器をこすってとか、そういったリクエストをしてこない。オレがどうするのかをただ見ている。期待のこもった眼差しじゃないところが、とてもエロい。熱視線ではあってもオレに対する指定がない。
オレが何をしてもおもしろいと思っている顔。
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