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番外:下鴨と関係ない人「とある会社員のぼやき」

とある会社員の視点。 ※番外編は時系列順に並んでいない可能性があります。  ひさしぶりに再会することになった学生時代の友人がうるさい。  位置としては俺が先輩なんだろうが、顔を知ってるせいか気安い。   「下鴨康介ってあんなんだったか」    腐っても新社長様を呼び捨てとはいい根性している。   「俺って、親の都合で転勤しただろ」    聞いてねえことをべらべらと語りだす。  自分がいなかった間の話を教えろと言われたところで、俺だって知らない。  なんで男である下鴨康介が四人も子供を産んだ上に社長になりだしたのかなど知らん。  手を休めることがないのでしゃべっていても許してやる。  ヒロさんに話せば褒めてくれると思うと頑張れる。  優しくした奴に優しくしてくれるヒロさんはマジ格好いい人だ。  筋肉を育てて腕相撲に勝つことを目標にして頑張っている俺に下鴨康介が口にした一言は忘れられない。   『弘文と手を握りたいためだけに鍛えてんの!?』    ドン引きした顔で言われた。  下心なんてものは持ち合わせていなかったのに指摘されると図星な気がして気持ちが落ち着かない。  ヒロさんは気にするなと言ってくれるが俺は腕相撲に誘いにくくなった。  下鴨康介の攻撃性は十代の俺たちには毒だった。    とはいえ、ヒロさんが任せた社長という立場は軽くない。  意外にもちゃんと仕事をしている。  しすぎているせいで人手が足りなくなるという恐ろしいことになりブラック企業にいたから引き抜いたと数十人単位で社員を補充しだした。   「そーいやあ、お前って久道さんの兄貴? あの人と付き合ってるって聞いたけど」 「いやないない。男同士じゃねえか」 「それは会社のトップのことを思えば今更じゃん」 「そういうことじゃなくて……それに今あの人いそがしいし」    下鴨康介新社長があたらしい社員たちを引き連れてやってきた背景にいるのはあの人だ。  目の前のこいつも含めてあの人が話をつけて連れてきたという。   「でも、声かけてくれて助かった。嬉しかったよ。給料より時間の融通きくとか人間関係でストレスないとこがいいよな」 「ここに来た時、目が死んでたよな」 「転職とか不安しかねえじゃん。自分が勤めてる場所が最悪だって思っても別のとことかそう探せないってか、切り替えられない、割り切れないってか、怖いってか」 「今は?」 「そりゃあ楽だよ。一週間肉体労働してて死にそうだったけどあの時はまだ人と話せる精神状態になかったから、逆に良かった。っていうか、ヒロさんはヒロさんだから現場はそんなに嫌じゃなかった。あれはあれで落ち着くっていうか」    あったかいお茶を飲んで一服するような表情をする。   「破壊作業が良かった。まずやってみろ。スッキリしたら続ければいいし嫌なら気にせず今の職場に居ればいいって」 「ヒロさんは言いそうだな」    鬱屈したものを吐き出して昔の会社を辞めようと思う気力が湧いてきたらしい。   「俺のことはいいって。あれだ、俺が言いたいのは下鴨康介だよ」 「なにか無茶振りされたのか」 「違う。俺がヒロさんに話しかけたら無言でヒロさんの膝に座りだした」 「昔からじゃねえか。なんだよ、今更」 「もう幼女じゃねえんだぞ!?」    もともと幼女じゃないというツッコミを入れる前に「それに」と追加報告があるらしい。  とりあえず聞いておく。   「ヒロさんが追い払うんじゃなくて自分が椅子の横に立って下鴨康介を座らせてたんだよ!!」 「新社長を社員の前で追い払ったりはしねえだろ」 「一人用の椅子に二人で座ると椅子が傷むだろって言っててヒロさんはやっぱりヒロさんだなって思った」  よくわからないところで和むがヒロさんらしさは分かる。   「社長のサインがいる書類があったから別の日に社長室に行ったら、椅子が替わってた。その上、ヒロさんとむかいあわせになる形で下鴨康介も椅子に座ってて、しかも寝てた」 「大人二人分の重量でも余裕の椅子を探したんだな……」 「社長が寝てていいのか?」 「社長だからこそいいんじゃないのか」    問題があったらヒロさんが叩き起こすだろう。   「ってか、その寝顔が天使だったんだよ!! 幼女じゃないのにっ」    もともと幼女じゃないとまだ認められないらしい。  子供がいるからだろうか。   「幼女、幼女って、弘子ちゃんには会ったのか?」 「まだだ。深弘ちゃんは寝顔だけ見た。かわいかった。海外のお菓子とか紅茶の缶とかのパッケージにある繊細なタッチの天使とか少女とか人形とかそういう雰囲気だった」 「お前の語彙のなさ……」    呆れた顔を作っておくが俺も同じ意見だ。  髪の毛がほどよく色素が薄い。  顔立ちは下鴨康介似なのか日本人顔というよりも西洋人形顔だ。   「ヒロさんが真っ黒い髪ってより色素薄めだから深弘ちゃんも髪の色が」  と話しているとさすがにうるさかったのかチームリーダーに黙ってろと怒鳴られた。  以前は怒鳴り声に反応して血の気を引いていたやつが今は「怒られちまったな」と笑う。  完全に気持ちが切り換えられたらしい。  昔の職場で何があったのかは聞いていないが、今が幸せだと言っている奴を見ると良かったなと思える。    だが、学校が午前だけだったといつもより早めに会社にやってきた弘子ちゃんを見て、弘子サポーターに手を挙げるのは早すぎる。    下鴨弘子を支持する会の会長とはいえ、適応力がありすぎる人間には警戒してしまう。  ヒロさんと同じく弘子ちゃんは手下は多ければ多い方がいいと断言するかと思えば、量よりも質だともいう。自分を高めることも必要だと言い始める弘子ちゃんはときに発言がブレるが、かわいいので許す。    不審者が出たり、少女誘拐が叫ばれる昨今なので休日は弘子ちゃん見守り隊になりたいが、ヒロさんに「休日はちゃんと休めよ」と言われてしまった。    あのヒナはどうなのかと持ち出せるほど俺は命知らずではないので黙るが、ヒナのように堂々とした活動をしたい。  

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