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番外:下鴨家の人々 「長女の考察?2」
「一日の大半を寝ていると思っていた深弘が実はヒロくんに一番抱っこされている」
「あぁ、たしかにヒロの方が深弘を抱き上げてるかも」
「これは私、コウちゃんにインタビューしました。コウちゃんは深弘がヒロくんに抱かれたがるって」
「たぶん、筋力的な話だと思うよ。康介くんは腕が疲れて抱き直すみたいなことをするけど、ヒロはずっと抱いたままで居られるし」
ひーにゃんの指摘に私は思わず感心した。その発想はなかった。抱き直されるたびに目が覚めたりすることが深弘としては嫌なのかもしれない。情報に注釈を入れることにした。
「あとヒロが言ってたけど深弘ちゃんって目を閉じてる時は眠ってるわけじゃなくて微睡んでるって」
「違いは?」
私の返しに「むずかしいところだけど違うよね」とひーにゃんは玉虫色の答えを口にする。
「ヒロさんはバランス感覚もいいっすよね。全然中身を揺らさないで物を運べる」
「お盆の上に液体のせて運ぶゲームとかガチで一人勝ち」
「ピザ生地を指の上で広げるのもスゲー格好いいっす」
最後は関係ない情報が入ってきたけれど一時期コウちゃんがヒロくんが作ったピザやパスタのブームが来ていた。
うどんとかも手作りしていたのでそういうものだと思っていたら自宅でするのは珍しいとテレビで特集を組まれていて驚いた。
長男である鈴之介情報によれば妊娠中に食欲がなくなったコウちゃんはヒロくんが作ったものを求めだすらしい。
市販品は受け付けないという噂だ。
「それより、お嬢」
「どうしたのモンブラン」
「……呼ばれるあだ名が毎回違う気がしやすが、あの、えっと」
「さっさと言いなさい。プリントアウトした書類の中に誤字でもあったの?」
「このヒロさんとこの『疲れたら康介の靴下を脱がす』って……」
なんのひねりもないそのままの内容に疑問が出るのはヒロくんがおかしいのか、理解力の問題なのか。
「間違ってないわ。ヒロくんもスーパー超人じゃないから疲れたりするの。人間だもの」
勝手にコウちゃんの靴下を脱がしにかかるヒロくんは疲れている度が高い。
自分がしてることに自覚がないのか後でコウちゃんに靴下をそこらへんに脱ぐなと言い出したりする。
「ヒロはわりと開くのとか剥がすのが好きなんだよ」
「あぁ、ポテチの袋を開けてもらったことがあります!!」
「開けてから渡すと不機嫌になったりする」
「あれって変なのを入れられるのが嫌だからとかじゃないんですね」
「単純に開けるのが好きだから」
ひーにゃんの言葉に社員一同でうなずく姿は上司と部下な感じがする。
社内勤務としては下っ端な勤続年数なのにすでに古株のごとく馴染みまくっている。
ヒロくんについて語れると社内地位が上がるというシステムなんだろうか。
私はこの会社で即高給取りになれる気がする。
「割り箸を割るのも好きだし」
「たしかに、食事の席で隣にいると割ってくださる」
「それはお前たちのせいだからな。ヒロが割り箸を与えないと食べ始めないから」
はじまりは割るのに失敗した割り箸を隣の人間に押しつけたことから始まるとひーにゃんは教えてくれた。
ヒロくんから渡された割り箸ならどんな状態でも嬉しいらしい。割り箸を貰ったことがある人間とない人間では地位が違うという。
「コウちゃんに水あめを与えてねるねるさせて自分で食べるっていう禿鷹みたいなことをしてた」
割り箸ネタで思い出したヒロくんの行動。
コウちゃんがあんなに頑張って割り箸に絡ませた水あめをぐるぐるしていたのに横取りするという鬼畜な所業。
「でも、昔から康介くんって知育菓子とかいじるけど口にしたがらないね」
「色がダメなんじゃないっすか。信号機みたいな色のやつはスゲー嫌な顔しますよ」
「あの人、赤々しいうめぼしをグロテスクって言ってました」
「あぁ、ヒロと康介くんから俺がよく梅干し回収してたわ」
懐かしそうに語るひーにゃん。
人には歴史があるのだ。
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