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番外:下鴨家の人々 「長女は未だに○○を知らない?1」

下鴨弘子視点。 「海問題」以降の康介、社長時代。  どこで何を誰に口にするべきか、大人はきっと考える。  私は子供なので考えなくていい、とまでは断言しなくても、ある程度は無視していい。そう思っている。  自分の立ち振る舞いを許されていることを知りたいのかもしれない。     「みんな忙しいの」 「弘子ちゃん?」    疑問形になりきらない私のつぶやきをひーにゃんはいち早く拾ってくれる。  お雛様と事務的なお話をしていたというのにこの反応の速さはもしかして異常なんだろうか。  わがまま娘は放置しているとすねることで有名なのかと卑屈な気持ちが芽生えたりするのは学校で人とぶつかったりするからだろう。    心持ち気持ちがしょんぼりしている時にひーにゃんはそこに触れることもなく接してくれる。  対等な話し相手というよりも抱き心地のいいクッションのような都合の良さがある。  プレイボーイ、遊び人、女ったらし、すけこまし、ホスト的な人種。  マイナス要素を含む単語が浮かぶけれど、正しい気がする。   「ひーにゃんがヒロくんをダメにしたの!?」 「え、急に……? えぇ?」    人さし指をひーにゃんに向けると大げさなリアクションでのけぞる。  本心から驚いているのか、とりあえず話に乗ってくれているのか。  この辺りを疑いだすのが大人なのか、大人とは建前も本音も考えても見抜きすぎないものなのか。   「何かあった?」 「さすがお雛様は淡々としておられる」 「弘子ちゃんってヒナのこと好きだよね」 「嫌う要素が特にない」 「……そうなの」 「ひーにゃん、好きだよ?」 「ごめん、すみません。言わせましたね。ありがとうございます!!」    頭を下げるひーにゃんの頭をなでると「なんで?」と話が戻る。   「私はそっと社長室を覗きました」 「堂々と行かなかったんだ」 「室内に漂う食べ物の香り」 「今日はちょっと時間の関係でヒロのお昼がなかったから……ヒロがいないから康介くんはケーキだけ食べてて深弘ちゃんは家から持ってきたお弁当だったけど」 「夕飯前の間食として肉まんとあんまんは許しましょう。構いませんよ?」 「そうなんだ」    思った通りに食べ物の差し入れ犯はひーにゃんだった。  でも、私が言いたいことはそこじゃない。   「肉まんとあんまん、どうやって差し入れました? おいくつ?」 「肉まん二つにあんまん一つかな」 「男子は肉好きだから?」 「よく考えてなかったけど……」  首をかしげるひーにゃん。  ひーにゃんはあの光景を見ていないのだから仕方がない。   「ヒロくんがあんまんとおぼしき存在の皮をはいでおりました」 「……あ、あぁ~」 「なんですか、その微妙に納得したというお顔っ」 「ヒロはさ、何か根詰めて作業してるとそういうことするんだよ。食べやすいところだけ食べるっていうか」 「あんまんの皮が食べやすいの?」 「餡の部分が熱くてすぐに食べられないって無意識に判断して外だけ食べたんだろうね」    私の中のヒロくんのイメージは半分こ。  何かを食べるときに個数が人数分なかったら半分くれる気がする。  皮だけを食べてしまうなんて半分に出来ないことはしない。  あんまんが一つしかなかったなら、なおさらだ。   「コウちゃんはどうするのかと思ったら肉まんの皮をはいでヒロくんに渡していましたっ」    私の驚愕が口からの解説で伝わるのだろうか。  ヒロくんの食べ方に文句をつけることもなくコウちゃんは肉まんの皮をむいていた。  そして、ヒロくんは肉まんの具が薄皮に包まれたものを食べていた。  とくに何も言わずに。    肉まんの皮をちまちまと口に入れていたコウちゃんはふと気づいたように薄皮に包まれたあんまんのあんこを半分にして肉まんの皮につけて食べだした。  

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