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「ヨアン様、このような所でお休みになられますと風邪を召されます。寝室でお休みください」  執務室の机に突っ伏したまま寝ている僕の耳元で、心地よいテノールを奏でるのは執事のイェレ。 唸りながら怠く重い体を起こせば、細められた鮮やかな青磁色と視線が絡む。黒く艶やかな毛並みを辿れば凛々しく尖った耳が目に入り、視線を外せばゆるりと立ち上がった細くしなやかな尻尾が背中から顔を覗かせた。  ああ、間違いなく僕のイェレだ。  戦闘用奴隷として売られていた黒豹獣人であるイェレの強靭な美貌に惚れ込み、父に購入をせがんだのが五年前。父は僕の玩具にと買ったのだが、イェレは教養も高く、奴隷身分から解放して従者として僕に仕えさせるようになるまでに時間はかからなかった。  そして今は、成人と共に僻地に移り住んだ僕に嫌な顔一つせずに付いてきて、僕の世話をしている。  イェレは最高の執事で、肉体労働は勿論、細々したことにまで気配りもでき、全てを滞りなく進める才量がある。そして、僕と体の相性がなにより良い。  ――そう、なによりも。 「四度目、ですか」  僕の髪を梳き流すイェレはゆったりと笑みを浮かべているが、その表情とは裏腹に抜き身の剣のような猛々しい屹立で僕の喉を犯していた。 「んっ……む、ぁ……イェレが、欲しい……」 「では、何をすべきかお分かりですね」  イェレの口調は至って穏やかだというのに、背筋を撫で上げる気迫は僕を服従させる。逆らう意志など微塵も湧きおこりはしない。  僕を支配するα。  それがイェレ。  しかし、その寵愛を授かる時が未来永劫訪れないことを僕は知っている。

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