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最終話

それから桜が満開となった半年後のこと。 「癸生川、どうしたんだそれ?!」 同僚である巽がオフィスの俺の席で大声を上げた。 「どう、って?」 外回りへ行く準備をしていた俺は、巽が何に対して驚いているのか分からず聞き返す。 「その指輪のことだよ!」 大袈裟な口調で話す巽の視線は、俺の左手の薬指へと注がれていた。 「あぁ、これのこと?」 平然と俺は言ってのける。 「いつの間に相手、見つけたんだよ!抜け駆けだろうが!」 憤慨する巽に俺は何事も無かったかのようにこう答えた。 「6年前から」 「えっ!マジかよー、6年前って!お前、じゃあ何で合コン俺と一緒に行ったりしてたんだよ。その時もずっと付き合ってる相手がいたってことだろ?」 「騙していたつもりは無いんだけど、色々それまで葛藤があってな」 そう話す俺は半年前までと違い穏やか表情が自然と浮かべられるようになっていた。 これも全て半年前に天嶺との誤解が解けて、晴れてお互いの気持ちが通じあった結果だった。 「癸生川主任、いますか?」 「壬生!聞いてくれよぉ、癸生川のヤツがぁ……」 巽の声に俺は営業部の入口に訪れた最愛の人へと思わず視線を向ける。 その様子に気が付いた壬生は密かに微笑み、自身の薬指に光る指輪をそっと俺にしか分からないように撫でた。 「壬生に続けて、癸生川まで薬指に指輪だなんて俺……置いてきぼりじゃねぇかよ!って、何か壬生のその指輪見たことあるようなデザインだな?一体どこで見たんだ……?」 じっくりと天嶺の左手の薬指のプラチナリングを見つめる巽に、俺は声を掛けた。 「ったく、指輪見てる暇なんてあったら仕事しろよ」 「クソっ、ついこの間まで営業成績最下位だったお前に言われたくねぇわ!とりあえず癸生川、あとで相手が誰なのか教えろよ?」 苦渋に満ちた表情を浮かべた巽は、すごすごと自席へと戻る。 その様子を見届けた俺と天嶺は一瞬視線が合い、クスリと笑う。 俺たちはこれから先もこの題名のない恋物語を一緒に続けていく覚悟を決めた。 その決意が、今お揃いの薬指に煌めいている指輪に全て秘められている。 あぁ、神様。 俺は今、幸せだ。 相変わらずこの恋も題名が付けられない秘密の恋である。だがもうバッドエンドを恐れることはない。 だって、天嶺の深すぎる大きな愛が俺を長年の呪縛から解放したのだから。 周囲に気が付かれないよう指輪にそっと軽くキスをした俺は、これからも続いていく天嶺との秘密の恋物語に何の不安を感じることもなくオフィスの外へと幸せそうな表情を浮かべ飛び出して行ったのであった――。 END

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