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第21話

「何かここまでで質問はあるか?」 世話役として俺を指導していた頃のような口調で天嶺は俺に尋ねる。 「あ、じゃあ“婚約”の話は?」 間髪入れずに、今会社全体の話題となっているこのネタについて尋ねた。 「あ……それね。昨日、丁重に断ってきた」 「――昨日?」 やっぱり婚約の話はあったんだ。 断ったとはいえ俺の心は思っていた以上に傷んだ。 ……もしかして昨日銀座で見かけたのは、お嬢さんへの婚約を断るためだったのか? 「早めにそういう面倒なことは片付けた方がよいと思ってさ。帰ったら早く紅羽と続きをしたかったかし……LINE、既読にする暇がなかったんだ。悪かった」 珍しく殊勝な態度で謝罪の言葉を口にする。 「あ、あと何で人事部へ自ら異動願い出したんだ?!」 先程の会話の中で疑問に感じたことを伝える。 「あぁ、それは簡単なことだ。紅羽といずれ同棲することを見越してだな、住所とか同じだと色々怪しまれるから俺が人事部へと異動して門外不出の出来事として隠蔽しようかと……」 悪びれもなくそう答える天嶺に俺は卒倒する。 「あ、悪人がいる。ここに」 思わずそう呟かざるを得なかった俺に、天嶺は満足そうな笑みを浮かべてこう尋ねた。 「……で、他には?」 「えーっと……」 思い起こせばこのタイミングで天嶺に尋ねておかなければならないことが、他にも沢山あるような気がしたが俺は次の瞬間こう告げた。 「“好き”です」 その瞬間、俺の中で待機していた天嶺の熱雄が激しく最奥で波打つのを感じた。 「反則だよ、紅羽」 先程とは打って変わって不思議と甘く感じた俺の痕跡が遺る天嶺のキスに、俺は自分からも強請るように啄んだ。 「すき……好き、大好き」 再開した天嶺の蠢きを後孔で感じながら、俺は今まで伝えそびれていた本音を全てさらけ出すかのように想いの丈を天嶺へとぶつけていた。 「俺も好きだ。紅羽、一緒お前を手放すつもりはない。逃げても必ず全力で探し出して二度と変な気を起こさないように俺の愛で縛り上げるからな。さぁ、これから昨夜の分のお仕置きを始めるとしよう」 ほくそ笑む天嶺はデスクに俺の背をつけるとそのまま脳天を突き抜けるような激しい快感を俺に再度もたらし始めた。 「忘れるな、“癸生川紅羽”は全て“壬生天嶺”のモノだということを――。相応しいとか相応しくないとか、そんなことは考えるな。絶対に幸せにしてやるから、紅羽はその愛を受け入れるんだ」 この日、何度目かの天嶺の白濁の吐精が最奥に解き放たれた瞬間、俺の記憶にはその言葉が新しく刻まれたのであった。 確かな天嶺からの大きすぎる愛と共に――

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