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第20話
「言葉の意味のまま……?」
オウム返しに話す俺の唇を軽く天嶺はチュッと奪った。
「最初はお前が隣の席でラッキーだと思っていた。出来の悪い同期が隣だったら、優秀すぎる俺の評価はすぐに上がると」
俺の後孔に天嶺の熱雄が咥え込まれたまま天嶺は話し出す。
「……なんか悪意あるな、その言い方。だけど、否定できないところもまた悔しいな」
眉根を思い切り寄せながら俺は答える。
「だがな、上司に呼び出されてある条件を出されたんだ。営業部のお荷物である紅羽を俺の手腕で一人前に育てられたら、史上最速で昇格させてやると」
新人でありながらそんな条件を天嶺に突き付けていた上司に俺はこの会社の管理体制を一瞬疑ってしまう。
「まぁ、ほら元々俺はここの社長の縁故入社だったからさ。上司からも悪意ある方で目を付けられていたんだよ」
またしても初めて語られる事実に俺は目が点になる。
「だけど今ならそのお役目も良かったって思っている。だって、あれだけの敵意で睨んでいた可愛い紅羽がベッタリと俺無しじゃいられない程懐くまで育てることができたからさ」
「もしかして、その……告白したってあの晩 思い込んでいたのも――」
「そうだ。俺がそのように紅羽が思い込むようにわざとあのように言ったんだ。部署が変わっても、ずっと俺を意識せずにはいられないように。全てこれは俺が仕組んだ心理的作戦だ。だから、紅羽からは告白していないし寝てもいない」
ようやくあの晩の真実を知り俺は胸のつかえが取れる。
だが同時に一つの疑問が沸き上がる。
「なぁ、天嶺ってゲイじゃないよな?」
「そうだけど」
「秘書課の美人な彼女もいたよな?」
「あ、そう言えばそんな子もいたよな。あの子はあの子で悪くは無かったんだけどなぁ。誰かさんが俺の前でいつも可愛い表情を見せるから、いつの間にかその表情から目が離せなくなって俺の方が虜になっていたんだよ」
「え、美人に俺勝ったの?」
思わず俺がそう尋ねると声を上げて天嶺は笑った。
「勝ったっていうか、俺……今まで付き合った相手はステータス程度にしか考えていなかったからな。“好き”だって思って手に入れたのは紅羽が初めてかもしれない」
衝撃的な告白に俺は思わず震える。
「紅羽がゲイだなんて知らなかったから、俺もこの気持ちをどう受け止めてもらおうか戦略を練る上でとても頭を悩ませていたんだ。だが、見てしまったんだ。紅羽が会社の近くで男とキスしているところを……」
天嶺の言葉に俺は思い出したくもない遠い過去が甦る。
あの頃の俺は、職場での失敗の憂さを晴らすようにゲイバーで知り合った男たちと一晩の関係を持っていたことを。
なるべく職場の近くで逢わないようにしていたが、偶然一晩だけの相手と職場付近で再開してしまい強引にキスを迫られたことがあったのだ。
まさかその時のことをよりにもよって天嶺に目撃されているとは……。
「お陰で俺は、紅羽に迫ってもリスクがそんなに高くないことを確信できたんだ。まぁ、リスクがあったとしても違う切り口から必ず紅羽を落としていたとは思うがな」
デキる男の自信たっぷりな言葉に俺は、改めて自分が好きになった相手が完璧過ぎて却って危険であることに眩暈を感じてしまう。
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