1 / 15
第1話
昔から、手に取るエロ本は緊縛、SMものだった。
それは、縛られて身悶える女に興奮するわけじゃない。俺が、縛られて犯されたい願望の表れだ。
俺が可愛い女だったなら、そういうチャンスがあったかもしれない。
いや、俺はべつに女になりたいわけじゃない。可能性の話だ。
『とはいえ、俺みたいなゴリラをどうこうしたい人なんて……いないよな』
30歳、職業プロレスラー。独身、彼女なし。
リングの上では華々しく振る舞っていても、実際はもう三十路の男だ。
『特にベルトを巻いた経験もないし、若手もどんどん活躍してる。第二の人生、考えた方がいいのかな……はぁ、めちゃくちゃにされたい』
そんなむなしい思いを胸に、俺は今日も本の中で縛られて犯される女に自己投影してオナニーをした。
大きな大会が終わると、しばらくは試合の予定がない。
他の選手連中は家族サービスや恋人とのデート、遊びに行ったりで忙しいらしい。
俺はというと、一人暮らしのワンルームで一日中、さっきみたいにオナニーしたり、スマホをいじって動画を見たり、SNSでエゴサをするくらいだ。
SNSに投稿された、ファンが撮ったらしい試合の写真を眺める。
#高倉 #高倉カイ と、自分の名前を検索バーに入力してみると意外と写真がアップされている。
目元を黒くペイントし、舌を出して相手の選手を挑発しているヒールレスラー、高倉カイ。
これがプロレスをしている時の俺だ。
うちの団体の、若いながらエースとしてがんばっている選手にも容赦せず汚水攻撃や凶器を使い、汚い言葉で罵る。
でも本当は、そういう行為をするのは苦手だが、あまりに自己プロデュース能力のない俺に会社が提示したキャラクター設定だ。
『カラダも昔はもう少し締まってたのに。マジで、これじゃあゴリラじゃん……ん?』
普段いかがわしいサイトを見ることが多いからか。SNSに表示される広告もいかがわしいものばかりだ。
「あなたの願い、叶えます?」
その動画広告を見てみると、真っ黒な画面に麻縄。真っ赤なそうそくから滴る蝋が素肌にぽとりと落ちる画像がスライドで表示される。
コクリと喉が鳴った。
これはSMクラブの広告かなにかだろうか。
黒いボディの鞭。ボールギャグ。それらが次々に表示された後に『本当のあなたを開放しませんか?』と広告は締めくくられる。
真っ黒な画面にぽつりと表示されたままの【開放する】と書かれたボタンを俺はタップした。
ともだちにシェアしよう!