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【9】あの日の夜も雨だった

ざぁざぁと雨の降る音が遠くで聞こえた。 雨は、嫌いだ。 特に、夜に降る雨が大嫌いだ。 雷を伴えば、気分は一層憂鬱になる。 大きな音は昔から苦手なのだ。 独りぼっちだと余計に強く意識してしまう。 一人で、体を丸めて超える夜が一層寂しさを増す。 日本建築特有の重厚な作りの家屋は、母と錦が使用するには広すぎる。 使用人を何人か雇ってはいるが、住み込みではないので夜になれば彼らは自身の家へ帰っていく。人の気配が無く静かで雨音がやけに大きく響く。 梅雨になると一層鬱屈とした空気が絡みついているようだ。 梅雨の時期――あの日の夜(・・・・・)も父は不在だった。 初夏の長雨の時期、錦は三者面談のプリントを持ち母の部屋に行った。 父はここ数日仕事で不在だ。仮に居たとしても話し辛い内容だ。 多忙な父親相手に学校行事の案内など渡すことはいけないことなのだ。 過去に一度だけ父に行事の予定表を見せた事が有った。 大事な仕事があるのに、そんな物を見せられてさぞや困ったのだろう。 父のその時の表情は、酷いものだった。 一瞬瞳に浮かべた不機嫌な表情に思わず謝罪をしたくらいだ。 それ以来錦は父親に学校行事の案内は見せていない。主に母親に報告をしている。父は錦の事は母親に任せているのだと幼いながらも理解していた。 大体、父親の立場を考えても断るのは心苦しいだろう。 だが、最近は母も学校行事に参加しなくなった。 大事なご用があるのよと彼女は口にしていた。 彼女が学校行事に参加したのは、錦が小学二年生の時に行われた春の家族遠足が最後だ。 そして、その数か月後の梅雨の夜の出来事だった。

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