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【60】夢か。それは良い。――夢だったのだろう。
「さてと。昼にはここを出るよ。霧も晴れる頃だろうさ。」
「そういうことは前日に言えよ。」
男は床に置かれた紙箱を持ち立ちあがる。
「お前はどうなるんだ。」
お前とここに居たい。
喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「どうにでもなるさ。」
「――そうか。」
自分の価値は自分が良くわかっているんだろう?
これ以上、惨めな真似はするな。
潔くしろ。
そう自身に言い聞かせる。
親にすら関心を寄せられない子供が、見ず知らずの他人相手に価値を見出してもらえると何を勘違いしていたのだろう。
駄々をこねるのは、男を困らせるだけだ。
諦めなんて、日常茶飯事ではないか。
仕方がない。
その一言で、男への未練を封じる。
「すまない。帰る。お前の事は誰にも言わない。」
夢の様な日々も終わりを告げる。
夢か。それは良い。
――夢だったのだろう。
「錦君?」
男に両腕を差し出す。これ位は許されるはずだ。
「最後に、抱きしめてくれ。」
男は困った様な顔をして、錦を抱きしめる。
最後か。男の胸に顔をうずめる。
そういえば、アルバムはどうなるのだろうか。
男と二人で写った写真、貰う事が出来なかったな。
10秒、頭の中でゆっくりと数え男の胸を押した。
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