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【64】一緒に思い出を作ろうか。

「――僕が義兄になった理由を踏まえれば、君は僕を嫌うかもしれない。」 『――俺は必要な子供だった?』 存在価値がないと思いながらも、僅かな希望が両親に問いかけ続けていた。 諦めながらも、僅かな矜持が疑問を持ち続けていた。 しかし錦の中で『答えは出ていた』から、止めを刺してほしいと思う程に抱えていた孤独感は臨界点を超えようとしていた。 誘拐犯と思い込んだ相手に、己の身を任せるまで錦自身は追い込まれていたのだ。 そこに、もしも義兄が現れたら――居場所を完全に失ったと、不安定だった錦の心はバランスを失い完膚なきまでに砕け壊れていただろう。 「嫌いに何て…ならない」 強がっても、きっと見透かされている。 確実に義兄を前に劣等感で押しつぶされていた。 「―――最近変質者が出たって友達に聞いてさ。学年違うんだけど友達の弟も君と同 じ学校なんだ。まぁ、それで、迎えに行こうかなぁってあそこで待ってたの。で、驚かせようと思って、誘拐の真似ごとしようとしたら意外に君ノリノリだったからそのまま、誘拐犯になっちゃった。」 抜け殻みたいな目をして。 君は何処でも良いから何処か遠くに行きたいって顔をしていた。 だから、見知らぬ大人になって遠くへ連れて行きたくなったの。 腰を掛けたまま、錦の両腕を掴んで下から顔を覗き込む。 「寂しいからって知らない大人について行ったら駄目だよ。」 鼻の奥がツンとし思わず目をそらす。涙が出そうになるのを堪えた。 じわりと滲むインクのように彼の言葉が、停止した思考を再開させる。 「もう少し写真が有ればアルバムが出来上がるんだ。全部埋まるまで残りの夏で一緒に思い出を作ろうか。」 「…その前に殴らせろ。この法螺吹き男が。」 海輝の胸元を掴んで拳を振り上げる。 彼は笑顔のままだ。 その顔を見ていると、切ない様な嬉しい様な訳の分からない感情が押し寄せて、錦はそのまま目の前にある胸元に抱き着いた。

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