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【63】不協和音

「――三年前、君が7歳の頃、朝比奈の親族内から養子縁組をされた子供の話聞いていない?両親を亡くし天涯孤独の身になった君より8つ年上の男の子。」 三年前。 その言葉に錦の心臓が爆発しそうなほどの速さで打ち付ける。 心臓の手術を行った時期だ。 後継者候補を外されることを見越し父親が強引に進めていた養子縁組。 義兄となる少年はどんな子供だったか、当時の錦は何一つ知らないし―――会った事すらない。 目の前の男を茫然とし見上げる。 「まさか…。」 錦の腕を引き玄関内側に招き入れるとドアを閉め、彼は式台に荷物を置き框に腰を下ろしスニーカーを脱ぐ。 「今ね大学一年生なんだ。夏休みだし、生活も落ち着いたから義弟にでも会おうと思ってたのさ。でも義父達は忙しそうだし?」 土間に立ったまま海輝の言葉を聞く。 男は誘拐犯でも何でもなかったのだ。 突然しらされた事実に自失した頭は思考を止めたまま上手く働かない。 夏休み中、錦を悩ましていた別離の苦しみがいまだ尾を引き、混乱の中で胸の奥に様々な不協和音が響く。 「折角の夏休みだ。一緒に別荘で過ごそうって計画してたの。」 「だって、お前…誘拐なんて。」 「君、どこか遠くに行きたがっていたじゃないか」 「…それは…」 睫に縁どられた瞳が微笑む。

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