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包まれる香り(企画)

 郊外に在る現代にはおよそ似つかわしくない周藤家の屋敷には1人の青年と、常に青年の側に控えている燕尾服の、さして年齢は変わらないであろう男が住んでいる。  一昔前ならば自らを高級品で飾り立てた中年の男女と、小・中学生くらいの少年と、使用人らしき年配の男らと、様々な年齢の女が居た。年齢的に考えて、少年は今もこの屋敷に住む青年だろう。 「瑛人」 「何でしょうか、輝様?」  瑛人、と呼ばれた燕尾服の男は笑みを浮かべてミルクティーの入ったカップを静かに主人の前に置いて返事をした。ミルクティーの匂いに混じって薄っすらと硝煙の臭いがする。 「今晩空けておけ」  輝は瑛人の方を一切見ずにそれだけ言った。畏まりました、と忠実な執事は恭しく頭を下げる。 「ところで輝様、1つお尋ねしても?」 「何?」 「先日いらっしゃいましたお客様の“勤め先”が判明しましたが如何致しましょう?」  ああ……と輝はソファの背もたれに寄りかかって天井を見上げた。 「好きにしてくれ」 「宜しいのですか?」 「殺すなり燃やすなり好きにすればいい。その代わり金目の物は持ち帰ってこい。最低でも盗られた分は必ずな」 「有難う御座います」 普段から微笑みを絶やさぬ男だが、より一層口角を上げた。    瑛人は輝が夕食を食べている間に出掛けた。行き先はこの間周藤家の屋敷に侵入したコソ泥と、その仲間が屯するたまり場だ。奴らは一人残らず瑛人の手によって三途の川を渡る事になるだろう。  瑛人は殺し屋だ。4年前、この屋敷に住む輝以外の人間を全員殺した。瑛人は後で周藤家の財を狙った輩に依頼されたと言った。輝は何故か瑛人に惚れられたせいで生き長らえている。輝の方も輝の方で、両親の欲深さと雁字搦めの生活に嫌気をさしていたところを突然自由の身にしてくれた瑛人を嫌ってはいないので、そのまま瑛人は執事という名目で屋敷に居着いているのだ。 「輝様、只今戻りました」 「お帰り……血だらけだな」 輝は白いシャツと手袋が真っ赤に染まっているのを見て顔を顰めた。瑛人は笑顔を崩さぬまま言う。 「御心配なく。私の物ではありませんから」 「知ってるよ」    シャワーを浴び、服を着替えた瑛人は断り無しに輝を抱き締める。 「きちんと言い付けも守りましたよ。綺麗にして来ますので御褒美を下さいませ」 綺麗に洗った筈なのに、輝は瑛人に染み付いた硝煙と鉄の臭いに包まれる。いつの間にか好いたその匂いに溺れる為に輝は瑛人の寝室へ行くよう命じた。  

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