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そこから一時間もしないうちに着いた会長ん家の別荘は想像した通りにでかかった。下手したら俺ん家の倍はあるんじゃねぇか…? 助手席で惚けている俺とは違い別荘に大はしゃぎの転校生は、家主である会長を置いて真っ先に中へと駆けていく。つうか家主云々を抜いたとしても好きな人のことを今まで脳裏にも掠めてない転校生ってどうかと思うんだが…。 例の如く転校生の後ろを引っ付きまわる役員達を見送った後、俺の膝で目下熟睡中の会長に目を向けた。いつもの気難しそうな顔を和らげて眠る姿は普段よりあどけなくて年齢相応に見える。 「会長、」 声をかけて髪を梳いてみる。 「(うわ、さらさら…)」 俺の手に反応してか、眉間に皺を寄せてぐずる会長の、普段とあまりにも違う姿に思わず苦笑する。 しかしこのままではどうしようもないので、今度はよく聞こえるよう耳元に口を寄せ、少し強めに会長に話しかけた。 「会長…起きてください」 「ん…着いたのか…」 「えぇ、皆もう中に入りましたよ」 髪をもう一撫でするとその手に会長が擦り寄ってくる。何だか猫みたいな人だな。 「んじゃ俺らも行くか」 一度伸びをして会長が別荘の方へ歩き始めた時、中からけたたましい音をたてて転校生が出てきた。会長を視界に入れた途端に頬を赤らめて走り寄ってくる。 「会長っ何処いたんだよ!」 「すまない。家の者と話していたんだ」 「もう皆荷物置いてきたんだぜ!会長も早く荷物置いてさっ…お、俺と一緒にいろよな!」 「あぁ…分かった」 ふ、と目元を優しげに細めて会長は笑う。その上頭まで撫でられたものだから、転校生は奇声を発しながら真っ赤な顔でまた中へと去っていった。何が何だか分からず首を傾げた会長も、転校生の後を追い始める。 まぁあんな笑顔見せられたら誰でも見惚れるか…それにしても会長、本当に転校生のこと好きなんだな。 しみじみとそんなことを考えていたら、片桐さんに話しかけられた。 「螢様、薫様のこと…よろしくお願い致しますね」 言われた言葉を、うまく理解出来なかった。 「え、俺…ですか?だって会長は転校生が…」 「いいえ。薫様は螢様に気を許しておられます。椛様への感情は、寧ろ逆なのです」 「逆?嫌い、ってことですか」 単刀直入に訊くと片桐さんは苦笑いに似た表情で、曖昧に笑う。 「私の独断ではそこまでは言い切れませんが…。昔から薫様は極度の人見知りで、警戒心が非常に強いお方でした。 多少親しい方でしたら、横柄な態度をとられるくらいで済むのです。ですが、本当に苦手な方には親しくしなければ何をされるのか分からなくて怖い、という防衛本能が働いて…逆に相手に優しくしてしまうのです」 告げられた事実に唖然としてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろうか。 会長…何て天邪鬼なんだ…。 「あの、じゃあ会長は…」 「椛様のことが余程苦手なのでしょうね。もっとも、薫様はこのことに気づいておられませんが…」 片桐さんが俺を真っ直ぐに見つめる。 「螢様」 「は、はい」 「薫様は真に心を許された方には、それまでの態度が嘘だったかのように素直に甘えられます。つまり、膝枕をされた螢様には多少なりとも心を開いている筈です。 人見知りの反面、誰よりも温もりを求めておられる方ですので、何卒、薫様のことお頼み申し上げます」 では車を停めて参りますね、と清々しい表情で言った片桐さんがその場を去っていく。それと入れ違いに、中に入ったはずの会長が俺の元へ戻ってきた。 放心状態の俺に気づいていないのか、服の裾をくいと引っ張られる。 「中入らないのか?」 「へ、え、あぁ…入りますよ」 「そうか、なら良いんだ」 俺の返事に満足したのか、照れくさそうにはにかんだ後会長は俺と手を繋ぎ歩き始める。 な、何だこれは…!どこから間違えた?車内に会長がいないのを気にしたことか?それとも体調悪い会長を看病したこと?すべてが今の状況に起因したように思えてくる。 だが、俺を一番困惑させたのは…会長を可愛いと思ってしまったことだ。 「…まじか」 頭の中を巡る様々な想いに対してぽろりと零した言葉は、まさに俺の正直な感想だった。 end

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