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あれから会長の吐き気が収まるまで背中を擦り続けた後に、寄るな触るなと暴れる彼を宥めて口元を濯いであげた俺を誰か褒めてほしい。 会長は漸く顔色も優れてきて、今は助手席に気まずそうに座っている。 「あの、朝から具合悪かったんですか?」 「違ぇ」 「じゃあ何なんすか」 「…酔ったんだよ、車酔い」 「は、」 言葉を飲み込むのに時間がかかった。あの頭脳明晰、文武両道、と四字熟語をいくつ並べても足りないほど完璧な会長が車酔い? 「……ふ、」 「テメッ…何笑ってんだよっ」 思わず笑ってしまったがどうやら表情にもろに出ていたらしい。誤解を解くために、怒りで頬に朱が差した会長に目を遣る。 「いや、会長にも苦手なものがあるんだなぁと思ったら…何だか微笑ましくて」 「微笑ましいって何だよ…誰だって欠点があるのは当たり前だろ」 「そうですね、会長も人間ですもんね。そっか…それで車内に姿が見えなかったのか」 「景色見とかねぇと吐くんだよ、後部座席には窓がねぇからな…」 そういえばリムジンの後部座席の窓は内装を損わせないために全て塞がれていた気がする。 「でも、転校生と話せなくてもいいんですか?他の役員様に先越されますよ?」 多少の車酔いなら体調不良をおしてでもアプローチしないとあの転校生は振り向かないだろう。そんな意味を込めて会長に問いかけたら、彼はきょとんとして俺を見た。 「椛?アイツとは別荘に着けばいくらでも話せるし…それに椛よりも、吐かねぇかどうかの方がよっぽど大事だからな」 今度は俺がきょとんとしてしまった。会長が転校生をすごく好いているのなら、少しでも一緒にいる時間を増やそうとしそうなものだが…。ひょっとしたらこの人、思ったよりも転校生のこと恋愛感情で好きじゃないのか? 怪訝そうな顔で此方を見上げる会長に曖昧に微笑むと、後ろで俺達のやり取りを静観していた片桐さんが口を開いた。 「螢様。螢様も助手席にお乗りになられるというのは如何でしょう?」 「え、俺もですか?」 片桐さんが何でいきなりそんなこと言い出したのかさっぱり分からないが、そもそも助手席って二人しか乗れなくね? 「このリムジンの運転席は三人乗りですから、心配はありませんよ」 心を読んだかのようなタイムリーさだな…片桐さん恐るべし。 「薫様もよろしいですよね?」 「好きにしろ」 「はい。では椛様方が戻られたら出発致しましょうか」 それから数分後。向こうから賑やかな声が聞こえてくる。その頃には会長の顔色も良くなっていて、俺は転校生に気付かれないように(と言っても転校生は俺を眼中にも入れてないんだろうが)助手席へと乗り込んだ。左右に揺られるのが嫌だという会長のために俺が中央に座ることになった。 「…会長、既に具合悪そうですけど大丈夫ですか」 「多分」 「目ぇ据わってますけど。そもそも車酔い体質なのに空きっ腹で車乗るから吐くんすよ」 「あ゙ーもう、うっせぇな…俺は寝る」 そうして大腿部に感じた軽い重みに慌てて下を見れば整った顔立ちと目が合う。 「いや、何してんすか」 「膝枕。着いたら起こせよ」 目を閉じてすぐに聞こえてきた規則正しい呼吸音に唖然とし、脱力してしまった。 「まじで寝んのかよ…」 運転席の片桐さんが思わず横で笑みを零したのを感じた。

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