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第1話

 忘れたはずの過去だった。  親友だった男なんて、もう2度と会わないと思っていた。  ――なのに、こんな事態になるなんて……。 「っう、ぁ、あ……あぁあっ」 「あぁ……綺麗だな、椎葉……」 「んっ、あ、ま、待て……やめ、やめろって……っ」  白く滑らかな肌をくねらせ、逃れようと泣きもがくのは、椎葉(しいば) 奈央(なお)。細く柔らかな髪は振り乱れ、普段は薄いレンズの奥にある涼やかな双眸は、今や涙に濡れている。  数枚の書類が散らばった室内には、仕立ての良いスーツが脱ぎ捨てられており、オフィスで肌を晒しているという事実が、奈央をいっそう苛んだ。 「ぁ……ん、なん……で……っ」 「本当に、どこもかしこも美味そうだ」 「ひぃ、っ、や、……くぅ……」  広いデスクに縋り付くように細い腕をつく奈央を、後ろから貫いているのは、須賀宮(すがみや) 志貴(しき)。フルオーダーのスーツの前だけを寛げた姿で、奈央の身体を余すところなく愛でている。  その端整な表情は、常になく興奮の色を宿し、仰け反る奈央の背中から首筋にかけてを、ゆっくりと唇で辿った。 「あっ、あっ、ぁあっ……っっ」 「…………食い散らかしてやりたい」 「っひ……っ……!」  志貴のポツリと呟く低い声には、欲望を堪えた熱い衝動が見え隠れし、それが本心からの切望だと知っている奈央は、恐怖と表裏一体の、納得し難い快感にゾクゾクと震えた。 「っ、あまり締め付けるな。加減できなくなるぞ」 「……っ……く、ぅ……っ」  意思に反して身体は正直だ。熱い剛直を離すまいと、後孔も内股も、勝手にヒクつくのだ。  息を吸うだけで、指の先まで痺れるような気持ち良さが、奈央の思考を支配していく。 「も、やだ……っ、もぅ、無理ぃ……っ」  もう奈央の前はぐちゃぐちゃだった。  志貴の片手で容赦なく扱かれ、弄ばれた屹立は、透明な粘液でぬらぬらと光り、既に限界は目前だった。  それに加えて、胎内を傍若無人に暴れる熱い塊は、奈央の前立腺を焦らすことなく徹底的に責め苛んでいるのだ。前後からの逃げ場のない刺激に、目元を真っ赤に染めた奈央は、志貴を振り返って許しを請う。 「し、き……っ、おねが、だか、ら……っ」  泣くような声で懇願する奈央の痴態に、志貴自身も煽られたのか、ガツガツと穿つ律動は、徐々に荒くなっていく。熱い吐息が耳元にかかり、それだけで背筋を快楽が駆け抜けた。 「ぁあっ、あ、あ、……っも、ほんと……でる……」 「っ出せよ」 「やっ……や、だっ……やだ……って、やだってばぁ……っ!」 「イけよ、奈央」  傲慢に言い放った志貴に、強く、深く、最奥を貫かれた瞬間――。 「っひぅ、ぃ、やっ……っぁあ――――……っ!」  我慢の限界を超えた奈央は、太ももをビクビクと震わせながら、白濁を散らした。志貴の男らしい手に握られた屹立が、ビュク、ビュクと、数度に分けて吐精する。 「ぁあぁぁ……っ、ん……」 「…………っく……」  胎内の奥深くでも、硬く滾った志貴の剛直が、ドクドクと脈打ちながら欲を放っているのが分かる。  その形容し難い充足感に、震えるように細い息を吐き出すのが精一杯の奈央。  だがこれで終わりでは無い。  くったりとデスクに崩れ落ちそうになる身体を、後ろから力強く支えられたかと思ったら、上気して汗の滲む首筋が舐められた。無防備に晒された白い柔肌に、赤い舌と、人にしては鋭すぎる犬歯がぶつかった。  ……吸血貴の、牙だ。 「……ぁ、っ、や、め……っ」  その牙が立てられたら、どうなってしまうのか。  期待に昂ぶる本能と、戻れなくなると怯える本心。  そんな奈央の葛藤ごと攫い尽くすように、躊躇いなく力を込める志貴。  ぶつり……と、鋭い牙が、奈央の細い首筋を穿った。 「ぁあ…………っ!」  その瞬間、絶頂の余韻なんかじゃない、狂おしい程の衝動が頭を真っ白にした。  身体が沸騰するんじゃないかと思うぐらいの、熱と、快感。  喉を鳴らす志貴の瞳は、赤く、その本性を曝け出しているのだろう。  冷静で余裕に溢れ、誰も比類出来ない有能で有望な男が、我を忘れたように夢中になる、唯一の瞬間……。  自分の血が、そうさせているのだ。  欲望のままに、だが決して奈央を奪い尽くさないように。必死に耐えながら、何度も、何度も、牙を立てる志貴。 「……ふ……あ……ぁ……」  過ぎた快感に、もう言葉も出なかった。  徐々に白み始める視界は、体力の限界によるものか、もしくは失った血液によるものなのか。  ボタッ……ボタリ、と。  気付かないうちに、新たに太ももを伝っていく白濁。  そして首筋に溢れた、赤い――……。 ***  2XXX年。  突然変異によって、人の血を嗜好する『吸血貴(きゅうけつき)』という人種が出生するようになった。  全人口の0.01%以下と言われている、希少種『吸血貴(きゅうけつき)』は、伝説にある吸血鬼(ドラキュラ)等とは違い、太陽光で灰になったり、ニンニクが嫌いだったり、コウモリに変身する……なんてことはない。絶対的な魅力を備え、その求心力と類い稀なる才能で、人間社会の頂点に位置する存在となっている。  誰もが憧れ、敬い、献身する、特別な存在、なのだ。  そんな吸血貴の1人が、多方面に展開する大企業の若き取締役である、須賀宮(すがみや) 志貴(しき)、25歳。  すらりとした長身に均整のとれた肉体、非の打ち所のない端正な面差し。頭もキレ、数カ国語を操る仕事量は常人の比じゃない。  希少な吸血貴の中でも、更に一目置かれた存在だった。

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