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第10話

-瑞雨-  深月のよろついた後姿を俺は一生忘れないんだろう。弟分が新たにできようが。目頭が熱くなる。これでいい。役目は果たした。これでいいと思わなければ、やっていられない。俺の弟同然だった。残してくれた痛みだけが顔面に響いて、消えないで欲しいと摩るたびに痛みが和らいだ気がしてしまう。 「なんでだよ八重!」  保健室から出て行く可愛い弟をじっと見送って、俺に掴みかかる。これで咲に役目が回ることはねぇんだと思うと安堵した。 「そろそろ巣立ちの頃だったんだよ」 「アイツはまだガキだろうが!」  咲、ごめんな。上手く立ち回れねぇんだよ、お前が守れたら、もうそれで。 「やめて、ください。やめてください。私が悪いんです、染井先生は…っ」 「やめろ、月下。どうみても俺がやり過ぎた」  咲を宥めようとするあいつは必死で、俺は結局何もかも守れないのかも知れない。譲れない意地すらも。深月が立ててくれた俺の面子(かお)も。 「違う、私は…お2人の関係まで壊したくない…!」  俺の肩と咲の腕を掴んであいつは首を振った。苦しくなる。こいつのことを守りきれない。咲を傷付けずには収められない。 「言ってる意味が分かんねぇよ、ヨシ。何がお前の所為だってんだ?なあ、教えてくれよ。…深月をあんなふうにしたかったのか!」  咲は怒鳴った。俺も聞いたことがないほどの怒声だった。あいつの肩がびくびく震える。俺との行為で一度失神しちまって、あんま刺激するのは怖い。咲に掴まれたまま、肩を落として項垂れるあいつの白い腕に触れた。静寂の中で、咲のほうが自分の怒鳴り声に驚いているらしかった。うるさいくらいの鼓動が俺にも届きそうだ。 「…このことは報告させてもらう」  咲は態度を改めて、ぼそぼそと言った。俺には止める資格がない。生徒だって殴った。校内で淫行に耽った。まだまだ。 「で、も…」  あいつは俺に一瞥くれる。俺の心配なんかするんじゃねぇよ。冷たい肩を抱いて咲から離した。 「分かった。これからのことはゆっくり考えることにするさ。ただ間違えんな、こいつは被害者だ。深月同様な。見てただろ?」  あいつは俺を睨む。余計なこと言うなよ、と睨み返せば逸らされる。 「オレはもうどうしたらいいか分かんねぇよ…こんなことでオレらは終わっちまうのか…?」 「ああ。お互い3方向に進んで行こうや」  俺の肯定は咲を苦しめる。分かっているが、それが俺の答えだから。 「悲しいな、八重?お前らの結婚だの育児だので疎遠になっていくもんだと思ってたんだぞ?こんなことで…こんなことでか…?オレが理解出来なかったからか?」 「違ぇよ。咲に落ち度は何ひとつねぇよ。じゃあな、咲。多分すぐに退職ってわけにはいかねぇと思うが」  咲は泣きそうになるほど顔をぐしゃっと歪めて保健室を出て行った。苦しいな。悲しいよ、俺だって。平気な面を貼り付けるってのは案外労力が要るんだな?あいつの顔を見られなかった。背を向ける。着替えるために気を遣ったくらいに思ってくれたらいいけどな。 「貴方は私に甘えろと言うくせに、貴方は私に甘えないんですね」  ごそごそと服の音がする。嗄れたあいつの声は優しい。あいつは俺に甘えていい。俺はそれだけのキャパシティを持つ。だがあいつの中に俺の居場所はないんだから、甘えていいはずがない。 「あのお二方ではないからですか」 「アイツ等とは甘えるとか甘えないとかじゃなかったんだよ」  笑ってやったつもりが乾いていた。声も出ない。何か不思議な力で顔面が真ん中に寄るような感じがした。咲も深月も泣き方がよく似ていたな。俺もか。どれくらい一緒にいたと思ってる? 「そろそろ俺も行くわ」  鼻の奥が一度強く沁みて、治まるのを待つ。喉が震えそうになるのを堪えてからやっと言葉を喋れた。  引き摺るように歩いて喫煙所、喫煙所じゃねぇけど、俺が勝手に喫煙所にしている用務員専用駐車場の傍の敷地の出入り口でタバコを吸う。ヤニは何の役にも立たない。むしろ不快にすらなって、これが苦い思い出になってこのまま禁煙できねぇかな、って。今日から何かが変わるんだろう。劇的に。そよかぜが冷たかった。 「八重せんせ」  ぼろぼろの風信が現れて俺はびっくりした。煙を吐くのも忘れて、もくもくと口の端から臭い煙が上がっていった。 「吸っててくださいよ。その匂い好きなんです」 「…どうしたんだよ、その顔…」  腫れ上がったり裂けたり青タンだったり、目を背けたくなるような有様に俺は風信の言葉も聞いちゃいなかったし、タバコを消すことも忘れていた。 「ちょっと訳ありっす。八重せんせ~は?頬っぺた腫れてっすよ」  俺は風信の言葉なんてやっぱり聞いちゃいなかった。腫れて切れた唇とか、乾いた血で汚れてる鼻とか、青タンできてる目とかまじまじと観察しちまって、明日には深月もこうなっちまってるかもな、なんて思った。手加減はしたが、暴力に慣れちゃいなそうな肌してそうだし、実際俺と咲がいればアイツをいじめようだなんて輩はいなかった。風信の誤魔化すような笑い声で我に返った。 「次はもっとまともな格好で来るっすね」  生徒の中では風信とは話す機会が多かったように思う。コイツには言っておくべきなのだろうか。だが早とちりしても仕方がない。 「ああ」 「八重せんせ」 「なんだ?」 「いいえ!気軽に話せる先生がいて良かったな、って思っただけっす」  こういう時ばっかり、人ってのは何か見え透いちまったようなことを言うし、そう聞こえるからいけない。俺は何も知らない、何も気付かないフリをする。 「もっと敬えよ」 「ははは、これ以上ないくらい慕ってるつもりなんすけどね」  風信は少し名残惜しそうにしながらも気安く俺に手を振ってひでぇ面のまま去っていく。それなら、ごめんな。いつか知るかもしれない俺の裏切りに深く傷付いちまったら。携帯灰皿を出す気にならなかった。ポイ捨てって最低だよな。教頭どもの置いていった錆びた空缶に吸殻を捨てる。溜息が出た。職員室に戻ったら、もう咲とは業務連絡以外も目を合わせちゃいられないのかもな。仕事中もちらちらしながらニヤつかれるのが何だかんだ俺は楽しかった。鉛を背負ったみたいだ。何の鍛錬にもなりはしないが、重い足で職員室へ帰った。デスクに付箋が貼られていた。あいつのお手本に忠実な筆跡じゃない。咲の下手くそな字でもない。堅苦しい字で『理事長室に来るように』とある。随分と早い展開だ。付箋を剥がしてすぐそばのゴミ箱に捨てると理事長室にお呼ばれする。仕事は果たしたつもりだ。代償は大きい。それなりの条件を呑んでくれるのか?津端のじじいはどう出てくる?分厚い扉を開けた。 「あ…ぁあっ!」  持ち腐れ同然の理事長机に素っ裸のあいつが押し付けられて力自慢ががつがつと腰をぶつけていた。そのすぐ傍でご立派な革の椅子に座って左右にくるくると津端が回っている。 「来てくれたか。てっきり気付かんかと思っておった…まぁ、その分こやつの責苦は続くがの」  顎で月下をしゃくり、力自慢が唸った。 「よい、美仁を放せ」  両腕を後ろに回され引っ張られていたあいつが放され、理事長机から滑り落ちる。力自慢の太い腕が崩れたあいつに気遣わしげに伸ばされたがあいつは首を振った。 「自慰をせいよ、美仁。お前の浅ましさを見せてやりなさい」 「は?」  俺はまた金縛りに遭ったみたいだった。真っ黒く太い男のアレを模した、AVでしか見たことがないシリコンともゴムとも分からない玩具を津端のじじいから投げられ、あいつは死角にいるのに律儀に頷いて、俺の目の前に這ってくる。黒いグロテスクなディルドを床に置いてあいつは大きく跨いだ。目を瞑り唇を噛んで腰を沈める。 「あ…っぅ、くっぅ…」  肩を震わせ息をしている。すべて収めると、ゆっくりと腰を上げた。金縛りが解けて、止めさせなきゃと思った。だが津端は「近寄るな!」と怒鳴り、それからふふっと笑った。 「哀れなものよな」 「どういうつもりなんだ?」 「生徒の魔羅でも、無理矢理突き込まれた魔羅でも、そんな玩具の魔羅でもそやつの好きモノ穴は悦ぶ。子宮じゃな、子宮じゃ…終いには相手まで選びおって…」 「やっ、あっぁあんっ、あっんんっ…」  あいつの高まった声を聞いて津端のじじいは笑みを深くした。 「もっと突け。まだまだお前の浅ましさはそんなものじゃなかろう?失神なんぞしおって…染井くん、教えてくれぬか?そやつは何人、何十人に抱かれて気をやっても、意識までやることはなかった…それをわぬしと交合うたらなんだ?美仁よ、あの有様はなんだ?雌穴の自覚を持たぬか!」  あいつは腰を上下させる。そんな罵倒許されるのか?録るもの録って、出るところに出たら名誉毀損もいいところだ。 「くだらねぇこと言ってイキがんなよ。理事長の座も淫欲生活からも引退しろよ耄碌じじい。血圧上がってぽっくり逝く気か?セクハラモラハラパワハラじいさん」  ここで立ち止まってどうする?こいつ助けられるの俺しかいねぇじゃん。一番こいつを助けちゃいけねぇのに?でもこいつは雌穴じゃねぇ。たとえ雌穴でもこのじじいに好き勝手言われて好き放題されていいやつじゃない。 「い、やっあっあ、やぁ、んっ、」  あいつの前で俺も膝を着く。俺は、俺を警戒しながらもディルドを押し込んだり出したり繰り返すあいつの冷えた身体を抱き締める。一際耳元で高い声を上げて波打つこいつをもっと強く抱いた。こいつがもう妙な命令なんてこなせないくらい。 「もうしなくていい。抜け。あのクソじじいがどれだけあんたを罵っても、あんたのことは俺がそれなりに見てきたつもりなんだ。クソじじいがどれだけあんたを小馬鹿にしても俺はあんたが真面目で優しいお人好しだってこと知ってるから」  拍手が聞こえた。 「美しい!実に美しいな。なぁ、染井くん。ひとつそやつを自由にしてやる条件をやろう」  くくっと笑って、津端は笑いが治まらずに喋れないらしき、暫く待っていた。 「暮町くん、君は染井くんを好いているのだろう?抱かせてもらったらどうだ?」  腕の中で強張る月下の髪を撫でる。俺のケツ穴が条件か。さらさらの髪を梳きながらどうするか考えた。考えちまって即答出来ない辺り、こいつのことを愛せちゃいねぇのか。自嘲する。好きなつもりだ、色々捨てたんだ。今更こだわるものもない。っつーか力自慢は俺のこと好きだったのか?いや、そんな様子なかったろ、津端のじじいのはったりか。 「いいぜ。来いよ」  津端は笑う。力自慢はそわそわしていた。 「ほら、長年焦がれた男が手に入る。君はよく儂に尽くしてくれた」  力自慢は動かない。なんだよ。手が震えた。ケツ掘られるかも知れねぇってめちゃくちゃ怖ぇな。こいつはそんなことを何度も何度もさせられてたってのかよ。悲しいな。つれぇな。こいつのこと好きだけど、尊敬の念まで抱いちまいそうだ。 「どうした、暮町くん。染井くんが待っているぞ」 「……ヤエサン…」 「ああ、まぁ、こうなっちまったら仕方ねぇな。女でもねぇし、犬に噛まれたとでも思って割り切るわ」 「……ヤエサン…オレハ」 「まぁ、気拙さなんて感じねぇで、またお茶と茶菓子頼むわ」  めちゃくちゃ怖ぇよ。ひゅんってした。生唾が止まらない。津端のじじいはこれ以上ないくらい陰湿に笑っている。力自慢はまだそわそわしている。 「何にせよ、君は退職だよ。君はある生徒に激しい暴行を加えたんだからね……実際に事を起こすとは思わなかったが」  津端のじじいは力自慢に、どうした?と訊いた。俺はもう逆に月下にしがみついてるみたいだった。 「染井先生?」  あいつが俺を見上げる。こいつが好きで、こいつはいっぱい傷付いて、まぁ、同じ傷背負うのも悪くねぇ、かな?それでまだこいつともし、まだ一緒に居られるならこいつにだけは世界の誰より優しくしたい。 「大丈夫だ」  震えててみっともない。あいつの背中を大きく摩ってから、震える膝を立たせて俺から力自慢の元に近寄った。 「…ヤエサン…」 「優しくしろよな」 「……ヤエサン、……」 「下手くそだったら悪ぃな」  力自慢に見下ろされる。すげぇ怖い。力自慢の岩石みたいな顔と円らな目が近付いた。膝も手も震える。押さえ込まれるのだと思った。だが額に柔らかなものが当たるだけだった。1秒そこらで離れていく。 「……オレハ、コレデ……」  逆光した中で円らな目が照っていた。 「暮町くん」 「……デキマセン」  クソじじいから笑みが消えた。ヤバいんじゃないの、これ。 「そこまで本気で惚れ抜いているというわけか。顔は立てよう、暮町くん。吐いた唾は飲めぬ。津端はわぬしにそやつをくれてやると言った。好いた者と共に生き、淫欲にまみれるのもまた良かろう。深月が家を継ぐ気になった褒美にしてやる。好きにせよ…わぬしがそやつの毒に中てられて、淫らに溺れる日が楽しみじゃ」  くくっと津端はまた笑った。 「変わりはいくらでもいる。いくらでも、な。お前はお前が長年の仲を引き裂いてしまった被害者と生きてゆけ。罪悪感に苦しみながら、股を開いて必死に繋ぎ止めておくことだ。帰る場所にはなってやろう」  杖をつきながら津端はドアに向かって、あいつの顔も見ずに吐き捨てる。 「ありがとな」  力自慢は不器用に頭下げてじじいの後を追った。理事長室で2人きりになる。無言のまま、静かに時間が過ぎていく。 「貴方には、感謝しています。でも、私は貴方とは…生きていけません」 「ああ。分かってるよ。俺が勝手にしたことだ。あのじじいが言ったみたいに仲を引き裂かれたとか思ってねぇし、罪悪感も股を開くのも、必要ねぇ」  でも最後に抱き締めたくなる。あいつの低い体温と硬い肉感だけは確かめて刻み込んで、そうすれば俺は忘れるように努める。無理だろ、知っちまったら。 「ごめんなさい」 「いや、気にすんな。選んだのは俺だ。あんたの負い目に付け込んでどうこうしたってな」 「少しだけ、お話してもいいですか」 「ああ」  理事長机の近くにあった着替えを放り投げる。1日何回、着たり脱いだりを繰り返すんだかな。 「私の両親は小さな工場を持っていたんです」 「ああ」 「どこか遠くへ遊びに行ける時間やお金はありませんでしたが食うには困らないほどの稼ぎで…ですが、世間の景気が悪くなれば、必然的にその工場との契約は打ち切りになりまして。そんな時にお金を借りたのが…津端さんが関係している金融機関で……膨れ上がる利子はどんどん返せる額ではなくなっていったんです。20年ほど前にあった商店街の爆発事故ってご存知ですか?」 「いや、知らない」  よくある借金苦による心中事件ってのはなんとなく察しがついた。 「あれの原因は私の両親の経営する工場が燃えたからなんです。といっても事故ではなくて、人為的なもので…でもそのことを生き残ってしまった私は誰にも言えませんでした。大好きだった商店街を両親が焼いてしまっただなんて。幸い他の死傷者は出しませんでしたが、それでも近所のスーパーや薬局は焼けてしまって。世間的には事故で両親と同胞(きょうだい)を失った私を保護してくれたのが津端さんなんです」 「親代わりだったってことか」  あいつはこくりと頷いた。 「元々どれだけ勧められても秋桜先生との妹さんと私なんかが結婚なんて出来るはずがないんです。でも夢を見たかった。秋桜先生と親戚になれるかも知れない、自分の家族を作れるかも知れないなんて、夢を見たかったんです。でも、浅はかでした。私は家族を持てるような資格も器量もないんです」 「資格や器量で家族なんか持つな。もっと、業が深ぇと思うよ、家族ってのは」  でもアイツ等は家族なんかじゃなかった。他人だった。三角形を作ってただけの、辺と角に過ぎなかった。 「堅気の貴方とはいられません」 「もうあんたはこっち側だろ。でも俺と居たくねぇってなら仕方ねぇ。元気でな」  損な性格してるわ、ほんと。  俺はベッドで誘い込むあいつの言う通りに出来なかった。カーテンを閉めるのに必死だったのにあいつが俺に跨ろうとして、かぶれたあいつのそこから目が離せなかった。AV女優が優位に立って、男優が情け無くイかされる騎乗位モノは結構好きだったがさすがにそんな私情を持ち込んだら終わりな気がして俺があいつを寝かせて体勢を変えた。積極性さえ見せればあいつは従って、恥じらうものの抗えやしない膝を開いた。淑やかで律儀で真面目なあいつが俺の前ですべて晒してるのが、申し訳ない半分興奮した。俺は自分の指を舐めて、まだ挿れるには早いかぶれたそこを撫でる。あいつは違う、違うと首を振った。 「ぁ、ぅん、」  唇が白くなるほど噛んで、俺の指を受け入れる。痛痒いだろうな。腫れた粘膜を刺激しないつもりでゆっくりと指1本を出し入れする。あいつが嫌がっていたところには触れない。勃ち上がってるものが俺の視界の中でぴくぴく震える。出したいのかと思って膝が閉じないよう押さえていた手でぎこちなく扱いた。あいつは手で口元を押さえて、腰が浮いたり引けていた。 「ぁ…あ、ぁっ、」  悩ましく寄る眉間とか涙ぐむ目とかに俺は見惚れてた。こいつに突っ込むなんて無理だ。ステンドグラスをハンマーでかち割るみたいな悪趣味な感じがあって。膝を閉じさせて俺は自分のソレを柔らかい内股に挟んだ。あいつの上半身に折り重なる。綺麗な形の耳を舐めたくて齧りたくて、腰を振りたくりながら距離を縮める。 「や、ぁ、入って…な、ぁ、あっ」  あいつの固くなったやつとぶつかって、擦れて、互いに汗が染み込む。柔らかな腿に擦れると堪らなかった。念願の耳を口に入れて舌を這わせる。顔を背けて俺を嫌がることにも興奮してるんだからとんだドMだ、俺は。胸が擦れて、下半身が擦れて、柔らかな腿に扱かれて。 「ぁあ、や、ぁ…んっぁ、」  耳朶を噛む。可愛い。好きだという感情が抑えきれなくなりそうだった。あいつのソレと俺のアレがぶつかる。腿に挟まれた感触も良かったが、物足りなくって、2本合わせて擦り上げた。 「ああっあ、あっ」 「…ッ、」  だらだらに濡れてダイレクトな快感に頭がバカになりそうだった。素股でこれじゃ、セックスなんてしたならどうなる?首なんてあいつの匂いが少し汗でこもってて、それだけで先に射精しそうだった。鼻腔から脳天まで鑢をかけられたみたいにあいつの優しい匂いが通り抜け、下腹部がどくどくいって、大きくなる。好き好き言っちまいそうだった。俺の匂いに塗り替えたくもなったし、こいつの匂い全部もらいたくもなって執拗に耳朶から首筋を舐める。膨らんだ胸もこいつは感じていた気がして捏ねてやるとあいつの腰が俺を擦り付ける。下腹部にある軸みたいなものがじんじん熱くなって、あいつにも伝わっているのか腰が曲がったり伸びたりしながら乱れていた。 「ぁっぁっ中、ん、く…挿れて…挿れ、て…中挿れ、て、ぇっんぁ、」  あいつのしなやかな手が俺のを撫でる。出そうになった。 「ッ、で…も…」 「お願…い、んぁっぁ、ん…もう、欲し、あっ …ぁんんっ」  ゾクゾクした。暴走しそうだった。携帯してたアルミの袋を開ける。いつのだったかな。あいつはすっげぇ切なそうにそれを見ていた。 「な、に…して…」 「ゴム付けるから、待ってろ」 「要らな、い…っ」  いや、要るよ。俺とセックスしたんじゃなくて、ゴムとしたんだ。忘れてくれ。ゴムを付けて、あいつの目元を覆ってやる。あいつはその手を嫌がった。一気に腰を進める。 「ぃ、んあっあっあっんん、」  キツい中は俺は拒んで押し返すくせ、半分まで入ると絡んでうねった。動かしたい。動かしたくて仕方がない。我慢しろ、我慢しろ。俺はこいつを傷付けたくない。 「あっあ、あぁ、ん、ぁ…」  あいつの目元から手を離す。泣きそうな目と目が合って、俺を見ていた。俺のアレが大きくなって、あいつが小さく悲鳴をあげる。 「あと、少しだ」 「動いて…大丈夫だ、から…んぁッあ!」  腰が勝手に動いた。溶けそうになる。あいつの中に引っ張られて、煽られる。 「気持ち…ぃい…」  あいつの眦からぼろりと涙が落ちて、俺はびっくりしたのに腰がまたあいつを穿つ。 「あっ、あっんぁ、気持ちぃ、んぁっあっあっ」  あいつは頭を振って、気持ちいいと繰り返す。俺ももう堪らなくなってあいつの腰を押さえて中を貪った。 「だめ…だめ…やぁっんぁっあっ!気持ちぃ、怖、ぃ…やぁ、アンんっぁっ」  髪を振り乱して俺から逃げようとする。でも俺ももう理性なんて利かなくて、無我夢中に頂点を目指してあいつの狭くて吸い付いては拒む中を貫くことしか考えられないでいた。逃げようと身体を捻るものだからあいつが嫌がってたところに俺の固いのが当たった、あいつはびくびくっと震えた。 「あああっあっ…」 「ここ、ダメなんだっけか」  言葉も喋れないみたいで目を見開いた、あいつは震える。 「あ、あ、ああ…だめ、だめ、やだ…んっんっんっぁっ」 「ごめんな」 「や、やだ、だめ、怖ぃんぁ、!」  あいつの手がシーツを掻く。俺が居るだろとばかりにあいつこ掌に合わせた。恋人のセックスみたいだとあいつは言ったがそう考えるとまた下腹部の奥の軸みたいなのがじわっと熱くなって加速する。 「やぁぁっだめ、やっぁっあっ、イく、」  かわいい。怖がってるところがかわいいとか最低だな。でもかわいい。俺に食われて、怖がって、乱れて。手に入れたい。でも。もう頭がくらくらした。出したい。こいつのイくところが見たい。俺もこいつの中でイきたい。最後にする。最後にする。 「ぁっ!だめ、やだ、イくっ、イくから、あっあっあっあっ」 「つきも、と…愛してる」 「んぁっああやぁああっあ、!」  目を開けていられないほどの快感に襲われる。ぎゅうぎゅう締め付けられて、引き絞られる。ゴムの中で放熱した。目の前がちかちかする。握った手に強く握り締められて、あいつはくたりと落ちていた。 「月下、月下?つきもと…―― ――朝の目覚めは今日も最悪で、めちゃくちゃヨカった。あの日の夢。あいつ無しで生きていけるのか?べったべたの下着を洗わなきゃならない憂鬱になかなか起きる気は起きなかったが、何せ気持ちが悪かった。ベッドから降りるとその下にしまっておいたゴムの箱が倒れていた。埃が溜まっていたならこのゴムも結構前のだな。いつぶりだった?あいつに惚れてからはしてない。その前はたまに浮かれて遊んだな。一応持っておくか、のつもりがあんな場面で使うことになるとはな。  ぷらぷらと職無しの気ままさを味わいながら公園の隅の喫煙所のベンチでタバコを吹かす。 「なんとなく、ここにいると思っていました」  聞き覚えがあるどころか夢の中で散々鳴かせた声に俺はタバコを落としそうになる。 「覚えてますか。あの日情けなく泣いてた私をここに連れてきてくれたの」  目の前にあいつが立っている。 「な、え…嘘ん」 「色々整理してきました。今は塾講師です」  平日の昼間。誰もいない公園。互いに私服姿で。 「は、え?」 「まだ貴方の傍にいてもいいですか」  力が抜ける。ベンチに崩れかけた。 「は、はは…俺はまだプータローだぞ…?」  初めて見た木漏れ日みたいな微笑みに俺も笑った。

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