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第16話 (R18)

◇ 気づくと玖珂の両手が俺の背中に回り、顔がくっつきそうな位に密着して抱かれている状態だった。 「離せっ」 「嫌だね」 彼の虎視眈々とした鋭い眼差しが、俺の心を貫く。 逃げ場の無い緊迫感が押し寄せ、どくどくと胸の鼓動が鳴り止まない。 「泊まるって約束して?約束してくれないと……」 妖しい手の動きで、俺の尻を撫で始めた。 「お前っ、怒るぞっ!」 「怒っても止めない」 「んあっ。やめっ……」 尻を更にきつく揉みしだかれ、恥ずかしい声を上げそうになるのを見て、彼は熱を帯びた声で囁く。 「可愛い……。感じてる?約束してくれるまでこのままだよ」 「はぁっ、あんっ、やぁっ……!」 濡れてシャツから透けた乳首に口づけると、強く吸われる。身体に激しい電気が走り、背中が仰け反ってしまう。 ジンジンと腰に集中する快感の痺れは、容易く身体を弛緩させてしまう程に刺激が強過ぎて、おかしくなりそうだ。ほろ酔いの敏感な身体が、無防備にそれを甘く感受していく。 更にこの金狐の力の馴染んだ水が、全身を舐め尽くすような愛撫となって襲いかかって来る。 「乳首、やっぱり凄い敏感だよね、水祝は。んっ……」 「ひぃっ、んっ、やぁっんっ……!」 くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、無心に乳首と尻をなぶられているのに、彼の首に捕まっていないと、溺れてしまう。 腰が勝手に揺れて止まらない。もっと快感を貪ろうと浅ましい腰つきでねだってしまいそうだ。 「ふふ。やらし……。腰振っちゃって。ここ好きなんだ?」 「あっ、あんっ、はっ、ああっ……。ダメッ、気持ちよくなっちゃっ……、あっ、あんっ……」 首をイヤイヤと振りながらも、甘えるように、高ぶった腰を無意識に押し付けてしまう己に、羞恥で更に乱れてしまう。 「すげぇ、エッチっ……。可愛い過ぎだろっ……!俺も手伝って上げるっ」 「あんっ、いいっ、やぁっ……!」 興奮した玖珂が唸るように攻めながら、硬くなった下肢を卑猥にぐりぐりと愛撫し押し回される。 両手で尻を揉みしだかれながら、お互いの腰を密着されて激しく揺さぶられた。 水が激しく乱れ掻き回される音が、快感へと繋がっていく。 服のままなのに。相棒なのに。男同士なのに。 そんな虚ろな思考が上滑りしながらも、快感が止められない。 「やだっ、くがぁっ、いくっ、いっちゃうっ……!」 「はぁっ……。水祝、水祝……!いいよっ。一緒にいこうっ!」 お互いぎゅっと抱き締め合いながら、快感の海に溺れていく。 猛烈に腰を振り立てられ、更に波が激しく踊り立ち、顔に飛沫がかかる。熱く敏感に立ち上がったお互いの性器が、布越しに擦り付けられ、びくびくと震えた。 「はっ、あっ、あっ、あんっ、あぁっ……!」 「くっ、んっ……!」 高ぶったモノが軟らかく萎えた後も、名残惜し気にゆっくりと擦られ、甘えた喘ぎが洩れる。 息を切らしながら、ふと近くにある玖珂の顔を見て、ゾクリと背が震えた。彼もこちらをじっと見つめている。野性味を帯びた、熱に浮かされたような瞳で。お前が欲しいと訴えかけられている気がした。 狐火が反射して妖しく輝く金髪。濡れた髪から滴り落ちる水。美しくも精悍な顔と魅力的な口元。今の彼に激しく唇を貪られたら、どうなってしまうか分からない。恐れと興奮が混じり合う。 それでも、そんな彼から目が離せない。 あぁ、今、すごくキスがしたい。 引き寄せられるように、ゆっくりと顔が近づく。 「水祝、愛してる……」 彼の囁く掠れ声に抗えずに、俺も受け入れるようにうっとりと目を閉じた。 その時、声がした。 『水祝は渡さない。水祝は我のモノ。我は、水天寿……』 「え?」 頭の中に浮かんだ声に、ぱっちりと目を開けた時だった。 横殴りの巨大な波が、俺達を襲った。咄嗟に玖珂の逞しい胸に抱き込まれて、更に金色の尻尾にくるまれた。 そのまま大窓に叩きつけられた。 「うっ!」 必死に玖珂にしがみついたまま、床に転がった。波はそのまま引いていき、ゆらゆらと小さな波を起こしていた。 「なっ、なんだっ……!?」 玖珂も豆鉄砲を食らったみたいな顔で呆然としている。 俺は、さっき頭の中に聞こえた声と名前を反芻した。 「水天寿……」 「え?何?」 「水祝は渡さないって、水天寿が……」 「水天寿って、もしかして精霊の真名?」 「う、うん。多分」 「まじかぁ……。って、俺もしかして宣戦布告されちゃった?」 「え?」 「うわ。まじで?おっかねぇ……。いや、それはそれで名誉な事かも?」 「何を言ってるか分からないぞ」 「んー?まぁ、いいや。こっちの話し」 首を横に振ると、よいしょと立ち上がり、俺に手を差し伸べた。 「じゃあ、お泊まりの間にどんどん口説かせて貰いましょうかね」 「何を言ってる。帰るって言ってるだろ!」 「その格好で?」 「うっ……」 ニヤニヤと見下ろされ、反発の意志が(しぼ)む。 全身びしょ濡れで、シャツやズボンが身体に張り付き、ある意味あられもない格好になっていた。極めつけの下着の中の惨事は、もう言葉にならなかった。 「ここは俺がやっとくから、とりあえず風呂入ってよ。話しはそれからでもいいでしょ?」 「分かった……。風呂は借りる」 「よしっ!」 小さくガッツポーズをして、あんな目に遭ってもまだ諦めてなさそうな相棒を警戒して睨みながら、大人しく浴室に直行する事にした。 プール部屋を出る前に後ろを振り返ると、供物台に乗っていた稲荷寿司と日本酒の入っていた盃が、いつのまにか綺麗に空になっていた。 それを見て笑みが溢れる。気に入ってくれたら嬉しいなと思いながら、供物台に深く拝礼する。未だに火照る身体をもてあましながらも、扉を開けようと俺は手を伸ばした。 プールの水上に灯った狐火が、優しく揺らめいた気がした。

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