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第1話
さて……
本日も相応しい成果だったと言えるのではないか。
『エグゼクティブ・バトラー』の役職に遜色ない成果だ。
『バトラー』とは、VIP専任の高級客室係を指す。
しかし俺が仕えるのは、世界のVIPでも、世界を動かす政治家でもない。
俺が仕えるのは、経済だ。
ホテル・モナルヒに仕える極少数の選ばれた人間のみに与えられる称号が『エグゼクティブ・バトラー』
エグゼクティブ・バトラーの職務は、主にホテルの買収
経営難に陥ったホテル・旅館の価値を見極め、我がホテル・モナルヒの傘下に加える。
俺はホテル・モナルヒに富をもたらし、日本に観光資源という富をもたらす。
日本経済を手の上で転がしているんだよ。
『エグゼクティブ・バトラー』の名のもとに。
今日も老舗旅館の買収に成功した。
経営難とはいっても、これまでの手法が間違っているだけだ。
テコ入れすれば今の倍……否、5倍の利益が上げられる。
(3年も必要ないな)
買収に費やした資金は2年だ。
2年で回収できる。
根拠だと?
事細かに挙げようか。
これが調査を元に作成した資料。現在の純利益だ。
これを元に試算した利益還元率
どうだ?
簡単だろう。買収なんてものは。
元手を担保に、より多くの利益を未来に上げられればいい。
実に単純且つ明快な数式だよ。
エグゼクティブ・バトラーの俺にかかればな。
(残業はしない)
残業とは最も不効率な人件費だ。
荷物を置いて、明日の準備をしたら、退社だな。
俺はいつも通り、ホテル・モナルヒのエグゼクティブ・バトラールームを開ける。
開けたら5分後には退社しよう。
いつも通り……
いつも通りの筈だった。
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