2 / 31

第2話

藍樹(あいき)君、遅いじゃないか」 誰だ、開口一番、俺にそんな口きく奴は! 俺が遅いだと? 残業を最も嫌う俺が、あり得ないだろう。 営業成績でトップを譲った事はない。 残業もした事ない。 全てにおいて、綿密な計画のもとに実行する俺が遅いなんてあり得ない。 エグゼクティブ・バトラーの計算に狂いはないのだから。 (課長じゃなければ、怒鳴ってるぞ) 「ホワイトボード見られましたか」 冷えた視線だけを向ける。 「帰社時間ちょうどですが、なにか」 「そんな事より!」 (はぁッ!) そんな事だと。 どの口が言う! お前が振ってきたんだろう。 そもそも管理職だろう。 部下の管理もできないのか。 優秀なエリートの俺に至っては管理不要だが、しかし。残業時間の削減は、管理職の主要且つ永遠のテーマであろう。 違うか? 違わないな。 「MSSがお待ちかねだよ」 「………………は?」 …………………………MSSって、なに? 俺の役職は『エグゼクティブ・バトラー』 略して『EB』 だが『EB』などと略すものではない。 長い言葉は何でも略したら良いというものではないさ。 『ED』みたいで嫌だ。 エグゼクティブ・バトラーがEDでは、価値が下がる。 俺はEDではない。 エグゼクティブ・バトラーだ。 ……と、そうじゃないんだ。 MSSとはなんだ? 『お待ちかね』……という事は俺より上の役職か。 聞いた事がないぞ。 新たにできた役職か。 なんの略だ。 「MSSとは……」 男は………… 優雅に前髪を指に絡ませた。 端整な声に鼓動が鳴く。 ………なんだ?この感覚は……… MSSとは、 この男は、 (一体なにものだ) 「MSS、それは……」 (それは?) 「ミラクル総支配人!!」 ……………… ……………… ……………… は?

ともだちにシェアしよう!