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第2話
「藍樹 君、遅いじゃないか」
誰だ、開口一番、俺にそんな口きく奴は!
俺が遅いだと?
残業を最も嫌う俺が、あり得ないだろう。
営業成績でトップを譲った事はない。
残業もした事ない。
全てにおいて、綿密な計画のもとに実行する俺が遅いなんてあり得ない。
エグゼクティブ・バトラーの計算に狂いはないのだから。
(課長じゃなければ、怒鳴ってるぞ)
「ホワイトボード見られましたか」
冷えた視線だけを向ける。
「帰社時間ちょうどですが、なにか」
「そんな事より!」
(はぁッ!)
そんな事だと。
どの口が言う!
お前が振ってきたんだろう。
そもそも管理職だろう。
部下の管理もできないのか。
優秀なエリートの俺に至っては管理不要だが、しかし。残業時間の削減は、管理職の主要且つ永遠のテーマであろう。
違うか?
違わないな。
「MSSがお待ちかねだよ」
「………………は?」
…………………………MSSって、なに?
俺の役職は『エグゼクティブ・バトラー』
略して『EB』
だが『EB』などと略すものではない。
長い言葉は何でも略したら良いというものではないさ。
『ED』みたいで嫌だ。
エグゼクティブ・バトラーがEDでは、価値が下がる。
俺はEDではない。
エグゼクティブ・バトラーだ。
……と、そうじゃないんだ。
MSSとはなんだ?
『お待ちかね』……という事は俺より上の役職か。
聞いた事がないぞ。
新たにできた役職か。
なんの略だ。
「MSSとは……」
男は…………
優雅に前髪を指に絡ませた。
端整な声に鼓動が鳴く。
………なんだ?この感覚は………
MSSとは、
この男は、
(一体なにものだ)
「MSS、それは……」
(それは?)
「ミラクル総支配人!!」
………………
………………
………………
は?
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