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第18話
「藍樹君。今日は君、内勤だ」
「ハァァァ~?」
なにボケとるんだ、課長。
「傘下に下ると向こうから言ってきてるんですよ」
昨日の案件!
俺の取ってきた例の老舗旅館が。
他社に取られる前に、正式な契約書を交わさないと。
エグゼクティブ・バトラーだからこそ、取れたんだ。
エグゼクティブ・バトラーならば、今こそ先方の信頼に応えなければ。
「契約書なら君以外でも交わせる。むしろ君が地固めしてくれた成果だよ。実績は君だ。田所君を向かわせたのは君の代打だから、実績は君だよ。安心してくれ」
「田所をーッ」
このボケ課長はっ
どうして、こういう時だけ根回しが早いんだっ
「藍樹君は内勤だよ!今日は本社の人間が来るから、お相手して……ねっ!」
「げ」
本社……
ホテル・モナルヒの提携会社だ。
無能な経営陣どもは、ホテル経営の保険に資本提携を先月契約した。
モナルヒだけでも十分やっていける。
この俺
エグゼクティブ・バトラーが居れば。
もう一度言う。
経営陣が無能なのだ。
資本金欲しさに業務提携を結んで、その提携会社はなにかと口を出してくるのだ。
俺達は業務提携を結んだ、株式会社バルトを皮肉を込めて『本社』と呼んでいる。
また、あいつか……
先月来た本社の無能を俺がやり込めてやった。
課長め、自分ひとりで本社は処理できないものだから。俺を頼りたくなったんだな。
エグゼクティブ・バトラーに敵はいない。
しかし毎回毎回、本社相手などしたくない。
これは本来は業務外の職務だ。
「やはり俺は外に出ます」
「そそっ、そんな事言わずに……ねぇ、藍樹君!」
「いちいち本社相手にしていたら、時間の無駄です」
「けれど、あの人達、怖いんだよ~」
おいおい、怖いって~
子供かッ
「とにかく俺は外に出ます!」
「困ります!」
困ってろ。
……って、課長の声じゃない。
外から聞こえた。
「困りますっ、御木本 部長」
御木本……本日の本社のお客様か。
「私は時間を大切にする主義なんだよ」
ガチャンッ
制止の声は無視され、突然ドアが開いた。
ダークスーツに身を包んだ、黒髪の男だった。
「バルト経営統括部長・御木本 崇 です」
精悍な口許が薄く吊り上がる。
「お初にお目にかかります」
……皮肉を込めて。
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