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第27話

搭乗時間まで、あと少し 道は渋滞か。 この道は混むんだ。 タクシーは一向に動かない。 (間に合うか) 間に合わなければ……きっと、あの人は待ってくれない。 御木本 崇とは、そういう人だ。 俺が行かなければ、最終決断を下す。 三上の記憶は戻らない。もう二度と…… 俺が去って、三上の記憶が戻るなら。 このままでは悲しすぎる。 寂しすぎるよ。 俺はもういないけど…… (幸せに暮らしてください) たまには俺の事、思い出してくれると嬉しいな。 「運転手さん、飛行機の時間があるんです」 どうか…… あの人が帰ってくるように…… 「間に合わせてください」 『行く必要ない』 どうして、声が聞こえたんだろう。 あなたの声が! トントントンッ 窓をノックする音だ。 ライダースーツに身を包んだ黒いオートバイが横付けに停まっている。 「運転手さん!」 窓が開く。 直感した。 「どうして来たんだッ」 外したヘルメットの下から、黒髪が蒼穹に流れた。 「君がいないから探したよ」 「どうしてッ」 あなたは俺を『君』と呼ぶ。 俺の存在など忘れているくせに。 あなたの記憶に、俺はいないのに。 なぜ? 「バルトに出向する。上から聞いていないのか」 「行く必要ない」 あの声だ。 声がリフレインする。 記憶がないくせに、どうして。 (俺を求めるんだ) 苦しい。 胸が、呼吸が、 鼓動が、体が、 全部苦しい。 狂おしいほどに! (あなたが好き) キスをした。 あなたの唇に触れたくて。 あなたの熱に触れたくて。 俺からあなたを求めた。 窓の向こう、あなたに手を伸ばして、あなたの頬を包んで 触れるだけのキスをした。 涙が一筋、こぼれ落ちる。 朝露のように散っていく。 これで最後 もう出会う事もない。 ありがとう 最後の恋が、あなたで良かった

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