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「唇」 2

 夢と昨日のことがあり、顔が熱くなる。ばれないようにとすぐに俯いて箸をおいた。 「俺、飯食っているんですけど」 「うん」  椅子を引く音。目の前に座ったのだろう。このまま居座られるのは冗談じゃない。  顔をあげて真っ直ぐと樋山を見る。今日も無駄にキラキラとしていた。 「別の場所に行って貰えませんか」 「なんで?」  言っている意味がわからない、まるでそういっているかのように樋山は首を傾ける。潮はイラっときて移動しようとトレイを手にするが、それを阻止するように腕を掴まれてしまう。 「樋山先輩、何を」 「ご飯、冷めちゃうよ」 「貴方がっ」  目の前にいるから。そう口にでかかり、そして静かに飲みこむ。  これではのペースだ。相手にしたらだめだ、さっさと食べてここから出ていけばいい。  箸をとり、食事を再開する。  目の前の男は無視だ。詰め込むことに集中するが、卵焼きがに奪われていく。  最後の一切れ。それだけはと思ったが、箸が掴んだのはの樋山の指だった。 「今日は潮君が指にキスしてくれるの?」  と口角をあげる。その瞬間、血がのぼる。 「なにを、いって」 「冗談だよ」  からかわれただけでなく、最後の卵焼きまで奪われてしまった。 「ごちそうさま、潮君」  ごちそうさまじゃない。朝から樋山と会うだけも憂鬱なのに卵焼きも食べられて最悪だ。  トレイをてにし、席を立ちあがる。 「まって、まって。卵焼きのお礼に飲み物をおごるからさ」  あれは勝手に食べただけだろう。そう口から出かかったが、そこに、 「樋山君じゃん」  女子のグループが樋山の方へと近寄ってくる。  この隙にここから離れようと思ったのに、 「潮君、待って。ごめんね、友達と一緒だから」  そういうと潮と共に行こうとする。  その瞬間、視線を感じた。きっとすごい目で睨みつけているのだろう。  サークルの時も樋山といると睨まれていたから、なんとなくわかる。 「俺、図書室へ行くんで」  別に行きたい訳じゃないが、逃げる口実にはなる。トレイを持ち、返却口へと向かう。  はやく樋山から離れたい。  早足で図書室へと向かうが、途中、腕を掴まれて人気のない場所まで連れて行かれた。 「待ってよ、潮君」  壁に背中を押し付けて腕の中に囲まれてしまう。 「何で俺に構うんですか」  一緒にいても楽しくないだろう。樋山を睨みつければ、傷ついたようで悲しそうな顔をした。

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