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「手」 5
樋山は空気が読めない奴なのではないだろうか。
相変わらず女子が集まる。
だが、樋山の目は真っ直ぐに潮へと向けられているため、女子達までもが怖い顔で潮を見ていた。
居心地が悪い。
席を立てば、樋山が当然のようについてくるので、ますます女子の怒りがこちらへと向けられるわけだ。
「アレ、どうにかしてください」
告白してからというもの、樋山のしつこさと遠慮のなさが増した気がする。
傍で見ていた真田にいうと、
「恋は盲目にさせるんだな」
しみじみと言われてしまう。いや、盲目になられたらこまる。潮が嫌な思いをするはめになるのだから。
「だって、もう我慢する必要はないでしょ?」
拳を握りしめてそんなことを口にする。
今までだって我慢はしていないだろう、そう心の中でツッコミをいれると、樋山は目を細めて口元を綻ばす。
「で、潮君とベッドでいちゃいちゃする!」
「ぶっ、何、バカなことを言うんですか」
浮かれているだけでなく、脳内はお花畑のようだ。
「うわぁ」
同情するように真田が肩に手を置く。そんなものよりも樋山をどうにかしてほしい。
「やっぱ無理です。付き合いきれません」
近寄らないでくださいと掌を樋山の方へ向けるが、
「ごめんね。もう、逃がしてあげられない」
その手を握りしめられてしまう。
「や、真田先輩、助けて」
「明石君、頑張れ」
俺には止められないと、手を振って行ってしまう。
見捨てないでと手を伸ばすが、樋山に抱きしめられて身動きが取れなくなる。
「樋山先輩」
「真田に助けを求めても駄目だよ。俺のしつこさはわかっているでしょう? 逃げても見つけるから」
「うっ」
そうなのだ。潮がどこにいても、気がつけば傍にいる。
「そういうところ、怖いんですけど」
「あはは、こんな男でごめんね」
全くその通りだ。だけど、そんな男に心を奪われてしまった自分もどうかと思う。
「そうですよ。本当の先輩を知っているのは俺だけなんですからね」
「それでも、好きでいてくれる?」
「……しょうがないから、好きでいてあげます」
最後の方は呟くような声で告げると、樋山のが目を見開き、そして嬉しそうに破顔する。
その顔を見れただけで、今までとは違う感情がこみ上げてきた。
愛おしい、嬉しい、幸せ、そんな感情だ。
そっと樋山の頬に手を伸ばすと、その手を掴んで愛おしそうに頬をすりよせた。
<了>
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