11 / 11

「手」 5

 樋山は空気が読めない奴なのではないだろうか。  相変わらず女子が集まる。  だが、樋山の目は真っ直ぐに潮へと向けられているため、女子達までもが怖い顔で潮を見ていた。  居心地が悪い。  席を立てば、樋山が当然のようについてくるので、ますます女子の怒りがこちらへと向けられるわけだ。 「アレ、どうにかしてください」  告白してからというもの、樋山のしつこさと遠慮のなさが増した気がする。  傍で見ていた真田にいうと、 「恋は盲目にさせるんだな」  しみじみと言われてしまう。いや、盲目になられたらこまる。潮が嫌な思いをするはめになるのだから。 「だって、もう我慢する必要はないでしょ?」  拳を握りしめてそんなことを口にする。  今までだって我慢はしていないだろう、そう心の中でツッコミをいれると、樋山は目を細めて口元を綻ばす。 「で、潮君とベッドでいちゃいちゃする!」 「ぶっ、何、バカなことを言うんですか」  浮かれているだけでなく、脳内はお花畑のようだ。 「うわぁ」  同情するように真田が肩に手を置く。そんなものよりも樋山をどうにかしてほしい。 「やっぱ無理です。付き合いきれません」  近寄らないでくださいと掌を樋山の方へ向けるが、 「ごめんね。もう、逃がしてあげられない」  その手を握りしめられてしまう。 「や、真田先輩、助けて」 「明石君、頑張れ」  俺には止められないと、手を振って行ってしまう。  見捨てないでと手を伸ばすが、樋山に抱きしめられて身動きが取れなくなる。 「樋山先輩」 「真田に助けを求めても駄目だよ。俺のしつこさはわかっているでしょう? 逃げても見つけるから」 「うっ」  そうなのだ。潮がどこにいても、気がつけば傍にいる。 「そういうところ、怖いんですけど」 「あはは、こんな男でごめんね」  全くその通りだ。だけど、そんな男に心を奪われてしまった自分もどうかと思う。 「そうですよ。本当の先輩を知っているのは俺だけなんですからね」 「それでも、好きでいてくれる?」 「……しょうがないから、好きでいてあげます」  最後の方は呟くような声で告げると、樋山のが目を見開き、そして嬉しそうに破顔する。  その顔を見れただけで、今までとは違う感情がこみ上げてきた。  愛おしい、嬉しい、幸せ、そんな感情だ。  そっと樋山の頬に手を伸ばすと、その手を掴んで愛おしそうに頬をすりよせた。 <了>

ともだちにシェアしよう!