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プロローグ

 まだ字が読めないその子はいつも、その絵本を読んでとねだった。  人魚の出てくる悲しい物語。その子はそれが大好きだった。丸い大きな目を潤ませて、いつもその物語を聞く。とても可愛い子だった。  大きくなって、字が読めるようになっても、毎晩布団に潜り込んできて、話してとせがんできた。それが嬉しくて、毎晩その物語を話して上げた。本の内容は暗記してしまっていたので、いつでも、どこでも話は出来た。  何故その物語が好きなのか、一度だけ聞いたことがある。 「こんなに人に思われるのはどんな気持ちかな。こんなに、人を好きになるのはどんな気持ちなのかな。悲しいけど、でも、僕は羨ましいな」  その子はそう言って笑った。  ずっと一緒にいるのだと疑わなかった。ずっと一緒に生きて行くのだと思っていた。しかしそれは叶わなかった。 「僕が人魚だったら、会いに行けるのにね」  最後、別れの日にそう言って、その子は泣いた。 「大丈夫、僕が泡になる前に絶対に見つけて上げるから」  そう言ってその子の体を抱きしめる。その子の体はとても小さくて、泡のように儚かった。

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