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綿貫碧(わたぬき あおい)2-8
それに、そうか、この男もクイーンなのだ。自分と同じで、クイーンは事後に風呂に入るのだろうから、ここにいるのはクイーンが大半だと気がついた。
「気持ち悪いなら、しなきゃいいんじゃないですか。しなくても良いって聞いたけど」
それに、男はまた笑った。良くも悪くも平凡な顔つきをしている男は、よく笑う。そして笑うと愛嬌があって可愛い。これは、可愛がられるタイプだろうなと思った。
そういえばこんな男を知っていると思った。同じクラスの、同じクイーンである甲野千秋《こうのちあき》だ。人懐こく、よく話しかけてくる。クイーンのくせに、何故か男達の相手をせずに、汚いことなど何一つ知りませんと言う顔で笑っている男だ。自分とは違うその天真爛漫さを見せつけられるたびに、酷く苛つく。綿貫は甲野のことが嫌いであった。
「俺は、二年生の高月《たかつき》だ。よろしくな」
そう言って、また笑った高月の顔をじっと見る。そして、甲野とは違う事に気がついた。しかし、どこがどうとは言えない。
「勿論しなくて済むならしないよ。でも、結構良い金になるから」
「え? 金?」
「そう。金。親は金なんてくれないし、ここにいたらバイトなんて出来ないだろ。無一文状態だからな。こうやって稼ぐしかない。かなり良い金になるよ。バイトなんて馬鹿らしくてやってられなくなるよ」
綿貫はそれに驚いて、平然と言ってのける高月の顔をまじまじと見つめた。
「それってウリじゃないですか。そんなの……」
プライドがなさ過ぎる、と言いたかったが、さすがにそれは言えなかった。
高月はそれに気がついたのだろう。相変わらず人懐っこい笑顔を浮かべながら答えた。
「クイーンである限り、惨めなのは変わらないだろ。こうなったからには、この立場を利用してやればいい。ただ、搾取されるだけなのはご免だ」
「したたかですね」
綿貫が苦笑すると、高月は急に真剣な顔つきになった。
「人間って不思議だよね。好きじゃ無くても、好みじゃ無くても、例え男でもさ、セックスすると情が湧くんだよ。それに加えて、こっちが優しくすると、もう一気に落ちる。そうなったらこっちのもんだ。小遣いを強請《ねだ》れば、いくらでもくれる。金持ちばっかりだからな。俺だけじゃない。クイーンは皆やってる。そのためのフェラの仕方とか、喘ぎ方とか、感じてるふりとか、知りたいことは色々教えてやるよ。いいか、俺達は娼婦で女王だ。上手く利用すれば、卒業した後も強力なコネが出来る。クイーンが皆惨めな人生送ってるわけじゃねぇよ。壊れる奴もいるけど、踏ん張った奴は、成功することだって出来るんだ」
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