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綿貫碧(わたぬき あおい)2-9
高月はそう言った後、すっと表情を崩して、元の笑顔に戻った。
「なんてな、真剣な話ししちゃったよ。綿貫君、可愛いけど気が強そうで、面白そうな子だって思ってて、一度話をしたかったんだよね。クイーンはそれなりに情報交換したりして、繋がりあるから、気が向いたらクイーンとも仲良くやってった方がいいよ。まぁでも、気をつけないと、嫉妬とか色々あるから、それも面倒だけどね。女役やってるとさ、心も女になるのかねぇ」
綿貫は高月の目に、甲野との違いに気がつく。この人は心から笑っていない。この笑顔は、この人なりに考えて作り上げてきた鎧なのかも知れないのだ。
「でも、金とか、媚び売るとか、俺、出来るか……」
「じゃあ、パピー狙えよ。色々援助して貰えるぞ」
「パピー? 何ですか、それ」
「パピーって言うのはさ、愛人制度だよ。クイーンが公衆便所なら、パピーはマスター専用の便器かな。ここの生徒達は心の結びつきとか、綺麗事言ってるけどな。金持ちの下らない遊びだ」
高月からパピーの説明を受けた綿貫は、高月同様、金持ちの下らない遊びだと思った。
「でも、相手選びは慎重にな。ケチなマスターとか、変態にあたると、どうしようもない。クイーンなら断れるプレイも、パピーになると断れないしな。クイーンの安全は明慶会が守ってくれるけど、パピーの責任は全てマスターにある。だから誰も助けてくれないんだ。それが嫌だから、あえてパピーにならないクイーンも結構いるんだ」
綿貫は体が冷えたと思って、シャワーを浴びる。滅茶苦茶な話だなと思った。
「じゃあ、どんな相手が良いんですか」
「やっぱり生徒会役員じゃね。レベル高い人多いし。特に、元会長の小湊先輩と、元副会長の三沢さんは一押し」
三沢の名前が出たことで、綿貫は心臓がドクンと脈打ったのを感じた。しかし表情には出さないように、シャワーを止めると体を洗い始めた。
「でもなー、小湊先輩はそういうの、一切興味ないみたいだし、クイーンを相手にしたこともないし。かと思ったら、新入生の甲野って子にべったりだろ」
「甲野?」
綿貫はその名前を聞いて、あぁ、そうだったのかと思う。甲野がクイーンなのに誰の相手もしなくていいのは、小湊がバックについているからだ。綿貫は、余計に甲野が嫌いになった。
「甲野君は、その先輩のパピーなんですか?」
「いや、それが違うみたい。だから、結構、皆苛立ってる」
「ふーん」
確かにそれは苛立つだろう。しかし、当の甲野は気がついていないのだと思うと、尚更苛立ちが増した。
「三沢先輩はな、小湊先輩よりも一押しだけど、まぁ、無理だろうなぁ」
「三沢さん? 何で?」
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