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第5話

―豊side―  枕元に置いたスマホがけたたましくなって、俺は相手を確認もせずに耳にあてた。 「……はい?」 『今日は何曜日?』 「はあ? 知らねえし」 『何曜日?』 「……木曜日?」  棚に置いてある電波時計を手に取ると、目覚めたばかりの焦点が定まらない目に力を入れた。電話の相手は美作弁護士事務所の所長・美作麗香だ。イライラしているのが声だけでわかる。 『それで?』 「ああ、明日が終われば休みだ。先輩とずっと一緒に居られる日」 『そんなこと聞いてない! 今日は何曜日?』 「だから木曜日だろ? しつこいな」 『今何時?』 「ああ……えっと、十時半?」 『もう一回聞くわ。今日は何曜日?』 「木曜日」 『まだ気づかない?』 「しまった!」 『よかった。まだ呆けてないわね』 「スポーツジムに行けなかった! くっそ……筋トレしようと思ってたのに」 『はああ?』  電話口で事務所の所長のキレた悲鳴が聞こえて、思わずスマホを耳から話した。 『ねえ、馬鹿なの? ちょっと……馬鹿?』 「パートナー会議だろ。毎週月木でやってるんだから、忘れるわけねえだろうが」  ああああ、と声を上げながら俺は起き上がる。手に持っている時計を元の位置に戻した。 『今どこ?』 「ベッドの中。めっちゃいい夢を見ててさ……もう、ギンギン。昨日は夜中までヤッたのになあ」 『踏みつけてあげるから、さっさと出社しなさい。会議は十一時からなんだから』 「……はいはい。仰せのままに」  通話を切ると、俺はスマホを布団の上に投げた。  女王様気質の麗香さんには困る。仕事さえきちんとこなしていれば、どんな生活スタイルでもいいって言っておきながら、意外と時間には厳しいんだよな 。  しかもマヤとのプライベートを一切、持ち込むなって。付き合っていることすら隠せ、と。仕事上で、接点も持つなとまで言いやがる。  自分のオフィスから眺めるだけって、生殺しだろ。なんのために一緒の事務所で働いているんだか?   もっとイチャイチャしていたいのに。大学の頃からの想いが通じ合って、ラブラブなのに。麗香さんは冷たすぎる。  クローゼットを開けると、俺は今日、着ていくスーツを取り出した。俺はベスト付きのスーツしか着ない。すべてオーダーメイド。仕事においては、見た目重視でいく。  中身で勝負? できるわけない。どいつもこいつも、初対面の服装で判断される。イイものを身に着けていれば、それなりの評価になるから。  スーツを着ると、ダイニングにいく。マヤが作っておいてくれたコーヒーを飲み、洗面所で軽く髪をワックスで整えると、車のキーを持って家を後にした。

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