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第6話

 職場のビルの地下にある駐車場に車を停車させると、エレベータに乗る。十五階で降りると、すでに秘書・坂崎美鈴がファイルを持って立っていた。 「会議室にみんな、お集まりです」  美鈴からファイルを受け取ると、歩きながら中身を確認する。昨日頼んだ資料がすでに用意されていたようだ。  早いな。いつも俺が催促しないと出さないのに……。いや、でも昨日の松本は早く帰ってたよな? 至急って付箋を貼っておいたのに、あいつ帰りやがったって思ったんだが……?  俺は速足で会議室に向かいながら、大部屋に視線を送った。マヤがデスクに座ってパソコンを打っている。松本がマヤに近づいて、ファイルを頭の上に落としているのが見えた。  あいつ……押し付けてやがったか。  ムッとして思わず、大部屋を睨みつける。会議室のドアを開けると、麗香さん以外の人間がすでに着席していた。 「相変わらず重役出勤なようで」 「そちらも相も変わらずの嫌味で」  俺は所長の反対側の誕生日席に座る。足を組んで、嫌味を吐くパートナーの佐藤に視線を動かした。  それなりに実績のある男だが……シニアの器じゃない。俺ほど稼いでないし、顧客も少ない。が、嫌味だけは一流だ。パートナーとして一番、長い男だ。俺がパートナーになる前から、パートナーだった。  だから俺にあっという間に抜かれたわけだ。誰もが思っていても口に出せない悪口や嫌味を、ポンポンと俺に言ってくる。 「京極の事務所を潰したからってさらに大きな顔をして……」 「佐藤さん、潰してない。まだ細々と経営はしてる。弁護士はすでに京極良成一人だけとなったが。優秀な弁護士はこちらに来てもらった」 「優秀? あれが? 小野寺真弥が? バックの後継者が凄いだけだろ。だから麗香さんだってパートナーにしなかった。大手事務所で弁護士としての実績があるなら、中途採用の新人枠にはしない。使えないからだ。だが、小野寺議員のご子息だから……」 「彼の力量通りのポストをあげるのならば……佐藤さんが降格するしかなくなるが? それこそ麗香さんの配慮だろ? あんたような大して実績のない人間のための……」 「……なんだと?」  怒りに戦慄く佐藤がテーブルを叩いて、立ち上がった。 「あら、私が来る前に会議が始まってしまったのかしら? 白熱しているわね」  美鈴が麗香さんを呼びに行ったのだろう。数冊のファイルを持っている麗香さんが会議室に入ってきた。  真っ赤なタイトなワンピースに黒の太いベルトをつけている麗香さんが席につくと、佐藤も悔しそうに席に着いた。 「ここ三か月で、京極の事務所で抱えていた顧客の六割がうちの事務所と契約を結んでくれたわ。小野寺君のおかげね。忙しい業務の合間を縫って、挨拶回りに行ってくれた。それと貴方がたは全く気付いてないみたいだけど、最近の資料つくりや過去の事案を掘り出しているのは小野寺君だから。貴方たちの下についてる弁護士が無能で、押し付けて帰っているのよ。うちの事務所のパートナーを名乗るのなら、それくらい気づきなさい。とくに佐藤、小野寺君の能力をそのまま評価するなら、貴方をまずクビするところから始めなきゃね」 「……ぐっ」  佐藤が苦虫を噛み潰した表情になり、下を向いた。 「で? あとは、小野寺君のことで聞きたいことは? ……ないなら、コソコソと陰口をたたかないで。きちんと仕事をしなさい」  さあ、今週の案件よ……と会議が始まった。

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